第33話 アイオーンドラゴンがパーティーに加入した
「領主にはなんて報告すればいいのかな」
アイオーンドラゴンが仲間になったと言っても信じてもらえるのか?
「本当のことを話すしかないでしょう。スーのことは遅かれ早かれ発覚すると思います」
ルーが真剣な顔で意見を述べる。
そりゃアイオーンドラゴンに人間社会に溶け込めと言っても無理な話だろうね。
最初から隠さないほうがまだいいか。
皇国が受け入れてくれないなら、他の国に移るという手もある。
現状まだこの国に生活基盤を作っていないのだし、今なら身軽だからね。
「何だ面倒ごとか? わたしが消し飛ばしてやろうか?」
「それは最後の手段で頼む」
領主を消し飛ばしたりしたらお尋ね者になることが確定してしまう。
スーは気を利かせたつもりだろうから怒るに怒れない。
「人間というのは何やら不便な生き物らしいな。それもまたよしだ!」
窮屈なのはいやがるかと思っていたけど、スーは楽しそうにしている。
圧倒的な能力を持っていて何でも自由になっていたからこそ、不自由を楽しむ余裕があるのかもしれない。
「ダメだったらその時考えるとしようか」
俺はそう結論を出してルーとうなずき合い、歩いて領都へと戻る。
その途中、兵士たちは一人同行者が増えていることに怪訝そうな顔をしたものの、何も言わずに通してくれた。
すぐに領主の屋敷に案内されて面会がかなう。
「早かったな。もう結果がわかったのか? S級冒険者というのはすごいものなんだな」
素直に感心したらしい老領主に俺が話しかける。
「このスーがアイオーンドラゴンです。単に水浴びを楽しんでいただけで、これからは冒険者になりたいそうです」
「……はっ?」
老領主は目を見開いて間抜けな声を出して硬直してしまったけど、無理もない。
最初聞かされた俺たちだって現実を理解できなかったもんね。
「ドラゴンが冒険者になりたいと言ったのか?」
唖然として老領主が俺から視線をスーへと移す。
「何か問題でもあるのか?」
「いや、問題があるわけじゃないんだが……」
スーの挑戦的な問いに領主は気圧されている。
見た目は可愛らしい少女だが、中身は圧倒的に強いアイオーンドラゴンだからね。
SS級冒険者だって一人じゃ無理だろう。
「冒険者の規約や皇国の法律はどうなっていますか? 人語を解するモンスターが、人間の味方として活動するなら許されるのですか?」
問題があるわけじゃないと言っているけど、念のために確認しておきたい。
「ああ。一応前例がないわけではないし、冒険者と契約を交わしたモンスターの存在も認められている。ただきちんと事前に申請する必要があるんだが」
領主は立ち直って俺に説明してくれる。
執事たちはまだ呆然としているので、この差がさすが領主ってところだ。
「アイオーンドラゴンとなると、私の一存で認めるわけにはいかないんだ。SS級モンスターの中でも間違いなく最強クラスだろう?」
領主の言いたいことはよくわかる。
単騎で国家を存亡の危機に追い込めるほど強大なモンスターを認めるかどうか、一介の領主の権限を越えているんだろうね。
「つまり皇都に行って皇王様の許可が必要になるのですね?」
ルーも気づいたらしくそう発言する。
「そういうことだ」
領主は深々とため息をついた。
まあ気持ちは正直わかるよ、態度には出さないけど。
「私の調査依頼は達成扱いとさせてもらう。報酬は金貨100枚払わおう」
淡々と感情を押し殺した様子で領主は話す。
アイオーンドラゴンが加入したという俺たちを、少しでも早くここから出て行ってもらいたいという気持ちがにじんでいる気がする。
「何かわたしを追い出そうとしていないか?」
眉間にしわを寄せたスーが俺に小声で話しかけてきた。
けっこう勘が鋭いんだね、ドラゴンって。
「まあどう考えても自分の手には負えない存在だからね。自分の責任じゃない範囲に移動してほしいんだろう」
たぶん領主は今メチャクチャ胃が痛いはずだ。
貴族や領主って基本的に好きじゃないんだけど、今回ばかりは同情してしまう。
「報酬と皇都への紹介状を渡そう」
領主が何か書きはじめたと思いきや、皇都への紹介状だったのか。
いきなり押しかけても皇王様には会えるはずもないからありがたい。
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