第29話 役に立ちたい
州都ソルトレーは領主のお膝元だけはあって、高い城壁に囲まれた大きな都市だった。
冒険者ライセンスと紹介状を兵士に見せると、すぐに領主の屋敷へと案内される。
対応したのは小柄な初老の男性で、近くには執事と護衛らしき者がいた。
「遠くからわざわざありがとう。受けてくれる冒険者がいてくれて、ありがたいよ」
そう話すソルトレー子爵は温和な老人という印象だった。
「本来は兵士も出すべきなのかもしれないが、いざという時の防衛戦力を出してもいいのかふんぎりがつかなくてね」
言い訳めいたことを言うが、言いたいことはわからなくもない。
冒険者だって攻撃担当、偵察担当、守備担当をパーティー内で分担するのが理想だからだ。
守備担当を他に回してしまうと、誰が守備やるの? という問題に直面する。
「わかります。相手がドラゴンとなるとなおさらでしょうね」
理解できると態度でアピールすると安心したようだった。
もっとも領主や貴族が相手の場合は在野の冒険者なら死んでも惜しくはないのでは? という勘繰りができてしまうのは事実だ。
領主の兵なら見舞金や年金などの支払い義務があるらしいけど、冒険者が死んでも自己責任で終わるからね。
育てるのに金をかけ、死んだ後も金がかかる顔なじみである兵士と、どこかで勝手に育った上に死んでも金がいらない冒険者。
便利使いされるのは圧倒的に後者だというのが現実だった。
もちろん、これは態度に出したりはしない。
「費用や報酬について相談させていただきたいのですが」
「前金は金貨1枚、調査結果に応じて金貨100枚まで考えている」
俺が水を向けると予期していたようにソルトレー子爵は言った。
普通ならドラゴン相手に前金が金貨1枚は少ないと言いたいところなんだが、今のところ危険度は低いと情報が揃っているからな……安いと文句をつけるほどじゃない。
「アイオーンドラゴンと言っても危険性はなさそうですから、引き受けましょう」
じゃなかったら受けないよと言外に示しておこう。
どんな条件でも引き受けると思われるのはよくないからだ。
特に貴族相手だとね。
ソルトレー子爵は無反応だったが、執事たちが一瞬だけ体を動かす。
冒険者のくせに貴族と駆け引きしようなんて生意気だ……なんて思われたかもしれないが、ここは譲れない。
S級の肩書とふさわしい実績があれば下手なことはできないから、気にする必要はないのだ。
「よろしく頼むよ」
ソルトレー子爵と別れて屋敷の外に出るとふーっと息を吐き出す。
正直けっこう緊張した。
領主相手は初めての経験だったからなぁ……早く慣れたほうが今後のためだろうけど焦ってもよくなさそうだ。
「ああいうのは苦手だな」
「……それでしたら私がお役に立てるかもしれません」
ルーが不意に口を開いた。
「一応王族として、あの階級の考え方くらいは知っているつもりですので」
「疎まれていて、だから関わり合いになりたくないだろうと思っていたんだが」
意外さを禁じえず彼女についつい聞いてしまう。
俺としては気を利かせていたつもりだったのだが。
「だから矢面に立ってくださったのですね。ありがとうございます」
ルーに笑顔で礼を言われて照れてしまった。
彼女くらい美人の女の子の笑顔には慣れていないんだ。
「私だってフランさんのために何かしたいんです。あなたのお役に立ちたいんです」
ルーはちょっとうつむいて語気を少し強める。
「だって仲間じゃないですか」
顔をあげて俺をじっと見つめた。
「あなたにお世話になりっぱなしなのはいやなんです」
「……ベンちゃんにはとても世話になっているけど」
思いつめた気配がするルーに、本人が気づいてなさそうな点を指摘する。
冒険者をやっていく以上、フェニックスのベンちゃんに乗れるのは最強カードの一つと言っても過言じゃないかもしれない。
「それだけじゃダメなんです。もっと役に立ちたいです」
「わかった。遠慮なく相談させてもらう」
ルーの意志は固そうだったので、言葉に甘えてみようと思った。
もっとも具体的なアイデアは何も浮かばないけど。
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