妹との誓い

「苺ちょっと駅前まで出かけてくるな」

「うん、いってらっしゃい」



 外に出た俺はまず空を見上げ、やはりと確信した。

『アルカディアの明日』の世界の空には一つ大きな特徴がある。月と太陽がいつでも同じ空にしかも同時に浮かんでいるのだ。



「ここはやっぱり『アルカディアの明日』の世界で間違えはないみたいだな。ということは魔法も使えるんじゃないか...?」



『アルカディアの明日』には最大の特徴があり、他の文字を読むだけのギャルゲと違い魔法を用いた探検パートが存在した。

 親友枠であった悠馬は序盤から終盤までお助けキャラとして結構強かった。

 俺は目を瞑りゲームと同じように魔力を集め魔法を空に向けて放つ。


【アイス】


『アルカディアの明日』における最低級氷魔法だ。

 体から少しだけ力が抜ける感覚がする。

 すぐに拳ぐらいの氷塊が地面落ちる音がしないので俺は少し焦る。



「もしかしてゲームと違って魔法名をいうだけじゃ発動しないのか?」

 そう言いながら目を開けて上を向いた俺は驚愕した。

 頭上には期待していた拳ぐらいの氷塊はなく、自分の家と同じぐらいの大きさの氷塊が浮かんでいたのだ。

 俺は正直焦った。これが家の近くに落ちると考えると流石に我が家もただでは済まないだろう。

 とその時家からカチャっと音がして苺が出てくる。



「もう、お兄ちゃん何遊んでるの?」

「苺?今は危ないから出てこない方がいいぞ?」

「お兄ちゃんこそ忘れたんですか?私がああいうの溶かすのに特化してるの」

 ハッと俺は思い出す。

 苺は探索パートでは確か炎の魔法を使っていたはずということを。

 だけど確かそこまで強くなかったような気がする。

「お兄ちゃん終わったよ」

 そんな苺の声を聞いて空を再び見上げた俺は驚いた。なんと綺麗に氷が溶かされ、なおかつ水が周りに落ちないように炎で蒸発させるという高度なことまでやってのけていたのだ。



「苺、お前いつの間にこんなことできるようになったんだ?」

「お兄ちゃんこそ忘れたの?私達は元々皆に怖がられないように力抑えて生活するようにしてたこと。信頼できる人にしか力を見せないっていう誓いも立てたよね」

「あ、あぁそういえばそうだったな。ごめんなこんなところで無闇に魔法使っちまって」

「大丈夫だよ。私が居る限りはお兄ちゃんが何かやらかしてもケアできる。お兄ちゃんが居る限りは私が何かやらかしてもケアできる」

 俺はそんなことを言っている苺の頭を撫でた。こんなに兄思いの妹だったのかこの子と少し驚きもあった。



 ん?待てよということは苺は雄のパーティで探索してた時は本気を出していなかったってことか?俺との約束を優先して。

 これでもう一つ俺は思い出した。苺のルートは何かずっと悩んでいるような節があり、選択肢一つを間違えただけでバットエンドに進む様な激ムズルートだった。

 なるほど。公表されてなかっただけで兄との関係や約束に悩んでたのか。

 初めから書いておけと思わなくもないがそこら辺開発側はユーザーがいつ気付くか見てたってとこか。



「あっじゃあ俺駅前行ってくるな」

「うん、余り外で魔法使ったらダメだよ」

 と苺は少しだけ嬉しそうに俺にそう言って家の中に戻っていった。

 あれ?そういえば苺のキャラが朝と違う気がするな。そんなことを思いながら俺は他のヒロインのヒントを得る為駅前に向かった。






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