先祖返り
「アン、一つ提案があるんだが」
俺は本のタイトルを見て黒い竜、いやケイビスを止めていてくれたアンに話しかける。
「なんですか?」
「この本をアンに読んで貰ってアンにケイビスを元に戻してあげて欲しいんだ」
契約の魔法というのは契約の内容によっては一生その人の人生を左右してしまうものだ。ならケイビスの姉であるアンにやってもらうというのは間違いではないはず。
だがアンは申し訳なさそうに首を横に振る。
「ごめんなさい悠馬さん。私ではその役目をこなすことはできません...。不思議に思いませんでしたか?何故私達ではなく、ロドリゲスがケイビスの症状を押さえ込んでいたか」
確かに言われてみるとそうだ。別にアンでもアレンさんでも王妃様でも別にいいはずだ。じゃあなんでロドリゲスさんだったんだろう...?
「理由は簡単なんですよ。私の妹ケイビスは先祖返りだからです」
先祖返り。昔は今より魔力が強い人間が多かったという話がある。それこそ古代魔法と呼ばれる、今になっては魔力量が違いすぎて使えない魔法なんてものもあったりする。だが現代においても古代魔法の類を使える者が生まれてくることがある。
それが先祖返りだったと思う。でも確か膨大な魔力を使えることと引き換えに何か代償を持って生まれる。そして同じ血が混ざっている者の誓約をつける魔法を弾くとかそんな話もあったような。
俺はそこまで思い出してハッとする。
「そう妹のあれは先祖返りの代償なんですよ。それと同時に同じ血が混じっている私や父、母には妹に誓約をつける契約魔法はつかないんです」
ケイビスにというかオーガスタの王室にそんな事情があったことが驚きだが、そうなると俺かレイがどうにかするしかない。だけど恐らく、レイの魔力では契約魔法を使うに足りない。
必然選択肢は俺しかいなくなる。ゴエティアはここまで見越して俺にこの本を渡したわけだ。
「俺がこれを読んでくる。それまで少しだけ時間を稼いでくれ」
俺はそう言い残し本を読む事する。
1ページ目を開いた俺は気がついたら知らないところに居た。ここがどこか全くわからない。俺は今まで何をしていたのかも思い出せない。
ただ周りは静かな草原のような場所だった。
何か大切なことをしていた最中だった気もするけど。
「なるほど。君が新しいこの本の持ち主か」
そう男とも女とも取れるような声が頭の中から聞こえてくる。
俺はその人に話しかける。
「貴方は誰ですか」と。
「そうか...。君はそのタイプなんだね」
そう声の主が少し悲しそうに呟いた。
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