第三十七話 亜栖羽のリベンジ
☆☆☆その①☆☆☆
お終いっぽいBGMが流れると、二人のスーパーヒロインは、手を振りながら舞台袖に退散をする。
子供たちは大声援で、二人のカーテンコールを待ちわびている。
ショーは終わり。
と思っていたら、キュリプラの二人がステージ前に登場して、子供たちとの握手サービスを開始。
子供たちはワイワイと喜んで、キュリプラと握手をしたり、ハグしたりと、まだまだニギヤカだ。
「へぇ…こういうところは、僕たちが子供の頃のヒーローショーと同じなんだ」
「オっ、オジサンっ、私も握手してきますっ! きゃ~っ、キュリプラ~♪」
言うが早いか、亜栖羽は子供たちに交じってキュリプラと嬉しそうに握手。
本来なら子供限定らしい、イラストと二人のサインがプリントされたカラー色紙も、バッチリ入手した。
握手が終わると、子供たちがそれぞれ二人と一緒に並んで、親子での撮影会が開催。
「オっ、オジサンお願いです~!」
呼ばれた育郎も、キュリプラと亜栖羽のスリーショットを、自分のスマフォで撮影をした。
後で、少女のスマフォに送るつもりだけど、これはこれで、青年も保存する。
(亜栖羽ちゃん、まるで子供みたいだ)
意外な一面を知って、何だか温かい父親気分でもある育郎。
第一回のショーが終わって時計を見ると、一時間ほど過ぎていた。
色紙などをバッグにしまう、ジャケット少女。
「さて、亜栖羽ちゃん どこか行きたい場所とか、ある?」
「オジサンにお任せしま~す。あ、でもお昼には公園とか 行きたいです♪」
「了解。それじゃ、行こうか」
育郎が再び、亜栖羽の荷物を持って、二人は屋上ショーを観終えた。
「ちょっと見たい場所があるんだけど、いいかな?」
デパートを出て、ちょっとマニアなサブカルショップへと向かう。
中央通りから少し外れた、裏通りでありメインストリートとも呼べる遊歩道。
インド料理店や海外のセレクトショップ、婦人服やシューズショップなどが並ぶ、やや狭い路地の、更に奥まった一角に、育郎の目当てのお店があった。
「あった。ここだ」
「プラモデル屋さんですか?」
「って言うか、ホビーがメインの何でも屋 かな」
一見すると、プラモショップのような店構えだけど、アクションフィギュアや漫画などの中古物品も多数扱っている、大人向けの街では、かなり珍しいお店だ。
「昨日、ネットで知ったんだけどね。ちょっと見てみたくって」
「あ、もしかして ロボ見るんですか~? あの可愛いタコさん、ここにもいますかね~♪」
二人はワクワクしながら、地下にあるショップへの階段を下りて行った。
☆☆☆その②☆☆☆
お昼になる頃、亜栖羽のリクエスト通りに、二人はスポーツ公園へ。
スポーツ公園なので、ブランコやジャングルジムや鉄棒などの子供用遊戯エリアだけでなく、マラソンコースやドッグラン、サイクリングコースやテニスコートやスリーオンスリーのコートまで併設された、一大ランドスポーツエリアである。
天気も良い休日だからか、広くて芝が整えられていて日当たりの良いキャンピングエリアは、家族連れやカップルが沢山いた。
「この辺りで、休みましょ~♪」
育郎からバッグを受け取ると、亜栖羽が折りたたまれたキャンプシートを取り出して広げる。
「さ、お弁当で~す♪」
バッグの中から、大きめのランチボックスが登場。
亜栖羽が、お弁当を用意してきてくれたのだ。
「おおっ! 亜栖羽ちゃん、お弁当 作って来てくれたんだ!」
驚きと喜びが、素直に表情で出る育郎。
「この間のリベンジです!」
鼻息も元気なジャケット少女だ。
手渡されたお手拭きで手をぬぐいながら、青年のお腹もグーと鳴る。
亜栖羽がランチボックスの蓋を開けると、オニギリと卵焼きとウィンナーが詰められていた。
「ぉお~っ、美味しそう~っ!」
オニギリは、大きさや形がバラバラだけど、頭の上にオカカや鮭などの具が小さく乗せられていて、中身が解るようになっている。
卵焼きは結構焦げているものの、中はトロトロで美味しそうな艶を見せていた。
ウィンナーもアチコチ焦げているものの、これはクラゲではなくタコさんだと、ギリギリ解る足の長さ。
育郎がお弁当に感激している間に、少女は水筒のお茶を淹れてくれた。
「それじゃ オジサン、どうぞ」
亜栖羽の手弁当で、昼食だ。
「「戴きま~す」」
育郎がオカカのおにぎりを手に取ると、亜栖羽はやや緊張した面持ちになる。
半分以上を食べる大きな一口で、想いが詰まったオニギリをパクり。
「あむ、むぐむぐ…」
「んく…ど、どうですか? 今回は、お塩とお砂糖、間違えませんでしたけど…」
「んぐんぐっ–うっ、うむうううっ!」
思わず喉を押さえて息が詰まる育郎。
「オっ、オジサンっ!」
亜栖羽は驚き、慌てて青年を支える。
「だっ大丈夫ですかっ!? 吐き出しちゃってくださいっ!」
必死に呼びかけながら、亜栖羽は嘔吐しやすいように、育郎の口の下へと、利き手を差し出した。
苦しむ育郎は、ス…と姿勢を正して少女に向き直ると、小芝居は終了。
「うっうっ–ごくんっ–うはっ、すっっごく 美味しいいっ!」
「え…も~っ、オジサンのイジワルっ!」
育郎の三文芝居に騙された亜栖羽が、怒って青年の肩をポカポカ叩く。
「あはは、ゴメンゴメン。つい…。でも本当に、オニギリ美味しいよ! あむ…」
大きな口を開けて、もう半分を一口で食べる。
「も~っ、本当にビックリしたんですからね~っ!」
プイと横を向いて、亜栖羽はオニギリを小さくパクつく。
「ごめんなさい。あ、お詫びにあれ、亜栖羽ちゃんが 追試を頑張ったプレゼント、奮発しちゃうから」
青年の言葉に、亜栖羽もチラと、恥ずかし気に視線をくれる。
(これ! これなんだああっ!)
こういうイチャチャした流れも、年齢→彼女無しな青年にとって、魂からの渇望だったのだ。
それが今、一ミリの違いも無くどころか、最上級な感じで叶った瞬間であり、ワレ無意識ニ感涙ス。
「追試…あ、そうでした!」
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