第三十三話 二度目のデート


              ☆☆☆その①☆☆☆


「点数は解らないけど…でも、少なくとも八十点以上はとれたみたいだ」

 亜栖羽にプレゼントの約束をしたのが八十点だから、あの輝くような可愛いドヤ顔から察するに、間違いないだろう。

 どのみち、点数がどうであれ亜栖羽が頑張ったのは事実だから、プレゼントはするつもりでいた育郎でもある。

 報告を受けた後も、青年は写真を眺めつつ、幸せ気分。

「これだけ自信があるって事は…もしかして百店満点だったのかな?」

 そんなマンガのような展開。

 とか思いつつ、嬉しそうな、点数発表を楽しみにしている少女の表情から察すると、十分あり得る。

「とにかく、プレゼント あげないと」

 それは男性として、素直に嬉しいと感じた。


 翌日からの亜栖羽のメールは、いつも通りというか「こんなチョコ見つけました♪」とか「今日は友達とプリントサークルを撮りました♪」とか、日常の報告が続く。

「う~む…意図的にテストの話題を避けてるぞ」

 なので育郎も、野暮な応えはしない。

 和菓子も好きだけどチョコも好きとか、プリントサークルは撮った事ないとか、当たり障りのない返事。

 そんなヤリトリをしながら、金曜日には本命のメールを、頑張って育郎自らが送信をする。

『日曜日、どこか行きたいところはありますか?』

「よ、よしっ!」

 失礼のないように、気を付けたメールを送って、祈りつつ待つ。

 デートも大切だけど、追試の点数だって当たり前に気になる。

「自由ヶ山の塔九デパートの屋上で、キッズアニメ『キーリングっど! キュリプラ』の着ぐるみショーがあるけど…」

 その件で誘おうと考えたけど、最初のデートで色々と準備した挙句の失敗も多かった。

 デートコースや食事、プレゼントの候補なども、色々考えてはいた。

 しかし、今回は亜栖羽の行きたいところを選んで行ってみる事も、お互いをよく知るうえで大切だろう。

 とか、真剣に三日ほど悩んで決心していた。

「でも…これじゃあ優柔不断な男とか思われちゃうかな…」

 どうしても悩ましい初恋青年である。

 数分もしないうちに、亜栖羽から返信が来た。

『自由ヶ山の塔九デパートの屋上で『キーリングっと! キュリプラ』の着ぐるみショーがやってるんです♪ 見に行きたいですけど、子供っぽいですか?』

「おおっ!」

 思わず声に出して、ガッツポーズ。

 同じことを考えていた事実も嬉しいけど、亜栖羽の希望を先回りできた自分が、何よりも誇らしい。

「よしっ、ええと–『ショーは午前十時からみたいなので、九時に駅前で待ち合わせ。でどうでしょう?』と…!」

 嬉しくて誇らしくて、入力する指も心も軽やか。

 亜栖羽の返事は。

『了解で~す♪ 日曜日、楽しみにしてま~すXD』

 と、帰りの通学路でウィンクしてる写真も送ってくれた。

 背後に、一緒に追試を乗り越えた友達も写っていて、亜栖羽の日常が垣間見れる。

「ああ、追試終了の時のもだけど…こうしてみると、亜栖羽ちゃんって本当に 学生なんだなぁ…」

 十年ちょっと前の自分も学生だったけど、もうずいぶんと昔な感じがする。

「あの頃の友達、みんな割と、女子を優先してたなぁ…」

 休み時間はともかく、放課後や長い休みは殆ど一人。

 通うところと言えば、学校の図書館か町立の図書館。

 または、ぼっち映画とかぼっち美術館巡りとかぼっちプラモ作り。

 僕は一生、一人で生きてゆくのかな。

 なんて、ずっと漠然と思っていた気もする。

 でも、今は。

 スマフォの中からウィンクをくれる亜栖羽。

「この笑顔だけで、僕は世界の誰よりも幸せだ…」

 心底から、そう実感する育郎だった。


              ☆☆☆その②☆☆☆


 日曜日は、晴天で風も爽やかで、まさにデート日和。

 育郎は、午前八時には自由ヶ山駅に到着していた。

 亜栖羽と出会っい、デートをした繁華街よりは大人っぽくて落ち着いた街で、しかし住宅街も近いので、子供向けのイベントなどもよく行われている街だ。

 少し小走りで、待ち合わせ場所に指定した、駅前ロータリーに設置されている自由の女神像の前へ。

「待ち合わせは、デパートが開店する九時。うん、遅刻はないぞ!」

 今日の服装は、前回に比べてかなり日常的といおうか。

 黒系のシャツに新しいジーンズ。大学生の頃に買ったスカジャン姿。

 肩掛けバッグだけは前回と一緒だから、ジーンズとカバンだけがピカピカで、デザイン的にもアンバランスだ。

 朝八時でも、休日の自由ヶ山は人通りが多く、若い男女が意外と目立つし、やはりカップルっぽく見える。

「…みんなもデートなのかな…」

 これまでの人生、こういう光景とか人々は、ずっと遠い別世界でしかなかった。

 男性たちはボッチの男なんて興味ないし、女性たちが振り向くとすれば育郎の顔に驚いた時だけだった。

 そんな辛さにも、青年はいつの間にか、慣れてしまっていた。

 でも今は、女の子とお付き合いをして、休日にはデートの待ち合わせ。

(しかも今回はっ、亜栖羽ちゃんの希望する場所に、エスコートするんだっ!)

 なんというか、男性本能としての庇護欲を刺激されて、しかも応じられる自分が誇らしかったり。

「亜栖羽ちゃんは、僕を頼ってくれているんだ…! 今日こそは、ちゃんと最後までエスコートするんだっ!」

 使命感で、筋肉が力んで膨張。

 決意に燃えるそのフェイスは、一週間ハラペコなライオンですら、群れごと逃げ出す最恐オーラだ。

 前回は色々と細かい失敗が続いたから、今回はお茶や食事など、全てに予備とその予備と更にその予備を考えてある。

「今日こそっ、亜栖羽ちゃんに、大人の男としてっ、格好良いって、思って貰うんだっ!」

 鼻息も荒く決意をする二十九歳は、前回のデートからあまり進歩していないようでもあった。

 そんな決意で燃えているうちに、八時四十五分。

「あ、オジサ~ン!」

「ハっ–」

 透き通った弾む美声に振り返ると、亜栖羽が小走りで駆け寄ってきた。

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