第四十一話 亜栖羽の告白


              ☆☆☆その①☆☆☆


「…オジサンだったら、きっと私の顔におっきな傷がついても、私のこと、大切にしてくれるって、思います♪」

「……っ!?」

 亜栖羽の顔におっきな傷。

 青年にとって、あまりにも強烈なパワーワードだ。

 亜栖羽の額とかに、おっきな傷がついてしまうほどの事故。とかを想像してしまい、無条件に涙が溢れる。

 亜栖羽ちゃんが、そんな辛い目に遭ったら。

 想像してしまっただけで、胸の奥がギリギリと、心臓を鉄の爪で握られて食い込まされるみたいに、痛い。

 育郎は、魂で叫んでいた。

「そっ、それはそうだよっ! 亜栖羽ちゃんは美人で可愛いけどっ、僕が何よりも大好きなのはっ、亜栖羽ちゃんの明るさとか優しさとかのっ、亜栖羽ちゃんの心っ、人間そのものだもんっ!」

「私も オジサン、そうです」

 言われて、ハっとなった。

 少女は告白を続ける。

「初めて会ったときは ビックリしちゃいましたけど~、今はオジサンのこのお顔が、私の オジサンです♪」

 明るく、ちょっとおどけて言いながら、見つめる眼差しには、少女の本音と告白への決意が感じられた。

「私、オジサンの優しさとか穏やかさとか すっごく勉強で得意なところとか、そういうところも…えっと…つまり、ぁの…」

 気持ちを伝えるのは相当に恥ずかしいのか、ジャケット少女の頬から耳から項まで、全ての肌が上気している。

 唐突に、亜栖羽はマンション玄関の広い階段を駆け上がって、ガラス扉な玄関ロックのカギを開けると同時に、振り向いた。

 そして、駅まで届けと言わんばかりに、大きな声で、大切な告白。

「わっ、私っ–葦田乃亜栖羽はっ、いぃいっ、育郎さんの全部がっ、だだ大好物なんです~~~っ!」

「大好物っ!」

「あひゃややっ–そ、それじゃ~またっ、メールしま~すっ♪」

 言い間違いに気づいて、慌ててマンションに引っ込んでしまった亜栖羽。

「あ、亜栖羽ちゃん…っ!」

 駆けながら、チラと振り向いた少女の瞳が、精いっぱいの告白で潤んでいた。

「あっ、亜栖羽ちゃーーーーーんっ! 僕もっ、亜栖羽ちゃんがっ、世界で一番っ、宇宙で一番っ、大好物ですーーーーーーーーーーっ!」

 最大の勇気と大声を振り絞っての、告白。

 全身の筋肉が盛り上がり、想いと声を、これでもかと拡大。

 その声の大きさは、マンションの最上階どころか、南太平洋のシロナガスクジラが、どこのクジラの歌かと振り返るレベルだった。

 勇気を貰って大声で伝えると、あれほど落ち込んでいた気分が、嘘のように晴れてゆく。

 ガラス越しでも聞こえたらしい少女は、恥ずかしそうな笑顔を振り向かせることが出来ず、エレベーターへと消えていった。


              ☆☆☆その②☆☆☆


 亜栖羽の為に整形しようと思った自分。

 あらためて、解った。

「亜栖羽ちゃんが言うなら、これでいいんだ…!」

 むしろ、外見に惑わされない自分になる事が、亜栖羽に相応しい男である事だと、今は思う。

 人生初の恋をして、人生初のデートをして、人生初の女性入室も受けて、人生初の告白を受けて、人生初の告白もした。

 全て、アタフタしてばかりいた気がする。

 これからも、人生初の出来事がやってくるだろう。

 それでも、堂々と、亜栖羽を護れる自分になる。

 そういう男…いや、漢になろう。

 感涙し決意しながら振り向いたら、おまわりさんが立っている。

「あ~キミね、なんか大声でおかしな事を叫んでいたね。ちょっと一緒に来てくれるかな?」

「え…」

 人生初、交番に連行された育郎だった。

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