第十話 デートスタート!


              ☆☆☆その①☆☆☆


「オジサン、助けてくれて ありがとうございました♪」

「い、いや…」

 ナンパ男から助けた礼を言われつつ、少女に見惚れてしまう。

 予想外な服装ではあったけど、制服姿の亜栖羽とは真逆というか、ミスマッチ的な意味でも、とてもよく似合っている。

 しばし見つめただけで、ド偉く可愛い。と確信していた。

「あ、亜栖羽ちゃん…凄く、可愛ぃ…」

 無心になって、思わず告げていた。

「え、えへへ…嬉しいな…」

 青年の言葉に、少女はあらためて頬を染め、頷いて照れ隠し。

 しながらも、青年を見つめる眼差しの亜栖羽。

(あ、亜栖羽ちゃんが見てる…ハっ、まさか、僕の服装が全然ダメとかっ!?)

 悪っぽいアクティブなファッションの亜栖羽に比べ、自分の服は似合ってないとか、それ以前にダサダサだとか、そんな感じなのだろうか。

 と、勝手に恐れおののいていたら、ある意味では図星だったらしい。

「オジサン その服、似合ってな~い☆」

「えええええっ!?」

 楽しそうな笑顔でダメ出しをされて、育郎は走って逃げたくなるほどの動揺っぷり。

 膝が震えて力が抜けて、この世の終わりみたいに崩れ落ちそう。

「なので、今日のデートは無しで☆」

 とか言われてしまいそうで、恐ろしい。

 涙が溢れそうな青年に、少女の言葉が続く。

「今日のデートの為に、ショップとかで買ったんですよね。えへへ…」

 キャンセルの告知かと恐れていたら、頬を染めて、嬉しそうな亜栖羽。

 どうやら、怒ったり呆れたりしている様子はなく、育郎脳は「?」しか浮かばない。

 というより、育郎の礼服姿とパジャマ姿しか知らない亜栖羽なのに、ナゼ新しい服だと看破できたのだろうか。

「き、昨日買った服だけど…なんで わかったの…?」

 答えは簡単。

「値札 付けっぱなしですよ」

「え、あっ、本当だっ!」

 指摘された首の後ろを探ると、確かに硬い値札がヒラヒラしていた。

 しかもよく見ると、シャツやスラックス、カバンにまで、値札が付けっぱなししである。

「あわわっ–ちょっ、ちょっと待っててね!」

「は~い♪」

 慌てて外す育郎を見ながら、亜栖羽は天使のような微笑み。

「こ、これで大丈夫だよな」

 全身を見回して、全ての値札を取り外したとチェック。

 購入したカバンに入れた最初の荷物は、外した値札たちだった。

 準備が完全に整った青年に、少女は無垢なワクワクフェイスで尋ねてくる。

「それで、今日はドコに連れて行ってくれるんですか?」

 なんて可愛い笑顔なんだろう。

 などと一瞬でハートを射られつつ、育郎は緊張しつつ、人生初のデート・エスコートを開始した。

「ま、まかせて…!」


              ☆☆☆その②☆☆☆


「ま、まずは…映画でも どうでしょうか…?」

「は~い♪」

 エスコート役として前を歩こうとした青年の背中に、少女が気づく。

「あれ? 映画の前に お墓参りですか?」

「え、お墓? あわわっ!」

 ナンパ男から守ったり亜栖羽に見惚れたりしてスッカリ忘れていたプレゼントの花束が、背中に隠しているという最低の形で見つかってしまった。

「えっと、これはっ、その…っ!」

 もっと格好良く、亜栖羽と会った次の瞬間にさりげなく手渡そうと思っていたのに。

 小さな花束を胸元で両手持ちしながらアワアワする巨体青年を、小柄な亜栖羽が察してくれる。

「あ、もしかして、私にプレゼントですか? なんちゃって☆」

 少女の気遣いに、この上なく助けられる育郎だ。

「! うんっ! あっあっ、亜栖羽ちゃんの為にっ、用意しましたっ!」

 一大決心の如く、青年は大きな体を九十度に曲げたシャキンなお辞儀で、花束を差し出す。

「え、本当に~? 嬉しいです~!」

 ニッコニコの笑顔で、育郎にとっては小さな、しかし少女にとっては両手で抱える花束を、受け取ってくれた。

 色とりどりな花に囲まれる、笑顔の亜栖羽。

(あぁ…亜栖羽ちゃん、花の妖精みたいだ……)

 赤色と黄色がメインの花束は、たとえ保持袋に入れたままだとしても、亜栖羽をより愛らしく引き立てている。

 立ち止まったまま、強面に純粋眼でウットリ見惚れる育郎は、亜栖羽の声で現実に戻った。

「えっと、映画ですよね?」

「ハっ–う、うん! それじゃ、行こうか」

 ネットで見た、エスコートの心得を実践。

 さりげなくを気取っても震えながら差し出された育郎の左肘に、少女は微笑みながら、恥ずかしそうに腕を通す。

 人生初の、腕組み。

 愛しい女性を護る騎士のように、堂々と。

 などと格好良く出来るはずもなく、身長差も手伝って、まるでお得意先のお嬢様を初めて案内する新入社員の如く、低い腰で少女を導く育郎だった。

「こ、こっちかな」

 後ろを気にしつつ、かといって少女の手を取る勇気なんて無い。

 初めて会ったときに手を取って走ったのは、人目があって必死に逃げたからだ。

 今のような日常では、そんな勇気の出ない青年。

 人生初のデートで、歩くのにも格好悪くないかと、無駄に緊張してしまう。

(と、とにかく、亜栖羽ちゃんが はぐれてしまわないようにしなきゃ!)

 と意識して、前から来るスマフォサラリーマンとぶつかりそうになったりもした。

 目的の映画館へと向かう二人の前には、意外といろいろな障害が立ち塞がるのであった。

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