第三十六話 屋上ショー


              ☆☆☆その①☆☆☆


 元気でポップな主題歌が始まると、子供たちのテンションも上がり、甲高い応援の声が、屋上から溢れ出す。

「きゃ~~~っ、始まりました~っ!」

 育郎が子供の頃に観たヒーローショーと同じように、司会のお姉さんが出てきて–とか思っていたら、BGMがおどろおどろしくなり、怪人らしきキャラが、戦闘員らしき六人ほどの集団を引き連れて、舞台袖から登場。

「? なんかあの怪人 見覚えがあるような…」

「オジサンですオジサンっ! あれが妖惑幹部ムカデールですっ、あはは♪」

 並んでいた幼女が、育郎に似ている認定した敵の幹部、ムカデールが出てきて、亜栖羽は可笑しくて笑っている。

 さっきスマフォで見せて貰ったムカデールは、本編で一回だけゲスト出演したアニメの画像だったけど、ステージ上で暴れているのは当然、着ぐるみだ。

 2Dと3Dなのに。

「ほ、殆ど一緒だ…っ!」

 最近のロボアニメも、当たり前にロボがCGだから、立体化された時でも違和感が無い。

 それを、手書きのアニメと立体の着ぐるみでこなしている制作スタッフの努力と実力に、育郎は軽い感動を覚えていたりする。

「…すごいんだなぁ…」

 ステージ上では、育郎に似たムカデールが、悪なのにちょっと愛嬌のある顔をした手下たちに指示をして、客席の子供たちを弄っていた。

『うわーはっはっはあぁっ! 子供たちの純粋な愛のジュエルは、この俺様っ、妖惑幹部ムカデールが、穢れた情愛のジュエルに染めてやろうナリィっ!』

「穢れた情愛…?」

 おおよそ子供向けらしくない単語を大声で発する怪人に、子供たちは純粋に怒って、怒鳴ったり叫んだりしている。

 それでも、セリフとBGMに合わせて演技をする着ぐるみは、見ていると不思議に違和感が無くなっていた。

「うわ~、ムカデール 悪いやつですよね~、あはは♪」

 隣の亜栖羽も、笑いながら、前のめりに熱中していた。

 ギラーンっと尖ったSEが聞こえると、戦闘員の一人が舞台袖に隠してあった、紫色のバレーボール大の球を取り出し、ムカデールへと走り寄って、手渡す。

『うわーっはっはっはあぁっ! 穢れた情愛のジュエルっ、戴いたナリィっ!』

 高々と勝利宣言をした途端、明るくて迫力のあるBGMが鳴り響く。


              ☆☆☆その②☆☆☆


『『待ちなさい、ムカデール! 子供たちの情愛は 渡さないからっ!』』

 悪側も悪側なら正義側も正義側で、なかなか危ないセリフを大声で叫んでいた。

 ステージ上に、キラキラなゴスロリを纏った二人の女の子が登場。

 頭部だけが笑顔の被り物で、身体は極薄い肉襦袢と、ゴスロリ衣装だ。

 被り物は、変身ヒーローの仮面のように小さく作られていて、身体部分の極薄肉襦袢と相まって、頭が大きいとかの違和感が全く無い。

 育郎は、子供の頃に観たヒーローショーよりも進化していると感じる着ぐるみに、また感動を覚えていた。

「す、すごい…っ!」

「オジサンもキュリプラ、ハマりますか? きゃ~、がんばれ~♪」

 育郎の反応を楽しみながら、亜栖羽自身もショーを楽しんでいる。

 待ちに待ったスーパーヒロインの登場で、子供たちの声援も一気に盛り上がる。

「きゃ~っ『キーリングっど! キュリプラ』だ~♪ キュリプラ~っ!」

 亜栖羽も声援で盛り上がっていた。

 ピンク色のゴスロリポニテ少女が、客席へと投げキッスをくれながら舞いつつ、名乗る。

「愛のベーゼ、キュラキッス!」

 水色ゴスロリの長髪少女が、指ウインクをしながら、名乗る。

「愛のパッション、キュラウィンク!」

「キスとウィンク…」

 なんだかHっぽいなと感じるのは、男性である育郎だけなのか。

 二人が登場すると、まずは戦闘員とのバトルが開始。

 六体の戦闘員は、それぞれ倒されても倒されても立ち上がって、間を繋げる。

 幹部であるムカデールは、その間、バトルの邪魔にならないように、ステージの端で威嚇したり鼓舞したりしている。

(なんだろう…ここでも仲間外れみたいな…)

 子供目線で育郎に似ているらしいモンスターに、既視感に似た不思議な感情移入をしてしまう青年だ。

 やがて、戦闘員が一人また一人とステージから撤退をすると、いよいよムカデールとの一騎打ちだ。

『ぇえいっ、キュリプラめぇっ! ナリィっ!』

 何か大技でも出すのかなと思ったら、そんな暇も与えられず、ヒロイン二人の必殺技が炸裂。

『『はじけろ心! 輝け未来!』』

 バックの音声に合わせてクルクルとターンをして、お互いのステッキ先端に優しくキッス。

「!」

 育郎が見た何話分かのストーリーでは、まだ使用されていなかった必殺技らしい。

 初めて見た必殺モーションは、育郎にとってやたらHな印象だった。

 二人揃って、ステッキをムカデールへと、ピタっと向ける。

 素直に、格好いいと感じた。

『『キュリプラっ、レインボーフェロ・スパークルーーーっ!』』

 何気に名前もHっぽい感じの必殺技が放たれると、奔流の凄まじい音で怪人が退く。

『っぐっわあああああああああああっ! ナリィっ!』

(ムっ、ムカデーーーーールっ!)

 ほんの一瞬だけ、なぜか悪側を応援している育郎だ。

 ムカデールは回転したり転がったりしながら、ボールを手放して舞台袖へと姿を消す。

『うおおおおおおっ! おのれキュリプラっ、ぉ覚えていろナリィ!』

 敗北したムカデールは、鉄板ゼリフを残して、舞台上から退散をした。

 向かって左側の舞台袖へと消えた紫色のボールに代わって、キラキラした虹色の綺麗なボールが転がってくる。

 一度うっかり落としてから再度スタッフの手渡しで受け取ったキュリプラが、高々とボールを掲げる。

『みんなの情愛、取り戻したよっ!』

『みんなの綺麗な情愛、大切にね!』

 戦いは、正義の勝利で幕を閉じたのだった。

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