第二十一話 お話しましょ


              ☆☆☆その①☆☆☆


 昨今、女の子がロボットアニメを知っていても不思議ではないけど、継続シリーズやアナザー世界のロボ名も、そこそこしっいる感じの亜栖羽。

「あ、亜栖羽ちゃん、こういうの 詳しいの?」

 予想外な感じで、ちょっとワクワクしながら訊ねてみる。

「全然詳しくないですよ~。友達が いわゆるプラ女子のサークル作っててですね~、色々と聞かされてているだけで。あ、ちなみに私は、プラモとか作れないですけど♪」

 現在、本格的にプラモを製作する女子たちも、当たり前にいる。

 アニメ系のロボが主流とはいえ、コンテストの常連さんやガレージキットの原型師、模型雑誌のモデラーなど、女性は多い。

「あ、亜栖羽ちゃんは、その…い、いい年してこういう趣味とか…呆れないの…?」

 まるで、先生に許しを請う小学生のような育郎だ。

「? なんでですか~? 私だってあれですよ、子供の頃に買って貰ったリナちゃん人形とか、大切にしてますもん~♪」

 エヘんと胸を張る亜栖羽。

「そ、そうなんだ」

 なんであれ、少女は青年のささやかな趣味を、すんなりと受け入れてくれたようだ。

(……良かった)

 ロボたちを捨てずに済んだ事もだけど、亜栖羽に呆れられなかった事が、何より嬉しい。

 心の底から安心。

 そうなると逆に、先ほどの亜栖羽の疑問に、率先して答えてしまう。

「さっきのこれだけど、ウイングランダムのОVAバージョンのデザインだよ。テレビ版ではメカなブースターのウイングだったけど、こっちでは天使の羽根みたいに変更されてね。当時は賛否両論だったらしいけどね」

「なるほど~。私はこれ、綺麗で好きです~♪」

 ガラスの棚に並べられた、育郎制作のプラモロボたちを、楽しげに眺める亜栖羽。

「あ、今 お茶だすね。えっと…紅茶とかの方がいい?」

「はい。ありがとで~す♪」

 さっき珈琲を飲んだから、今度は紅茶。とはいえインスタントだけど。

 冷蔵庫に何か甘いお菓子でもないかと探るけど、普段からお菓子を食べる事のすくない育郎のキッチンには、それらしい物はなかった。

 キッチンの棚をゴソゴソしたら、未開封の御煎餅が出てきた。

(お、賞味期限は…まだ大丈夫だ)

 そういえば、亜栖羽と出会った夜に、夢現(ゆめうつつ)で買い物をして、買った記憶がボンヤリとある。

「亜栖羽ちゃん、和菓子が好きって言ってたけど…紅茶と合うのかな…? ああそっかっ、急いでケーキ…いや羊羹とか買ってきて–」

 などと気遣いにアワアワしていたら、リビングの亜栖羽から、楽し気な言葉が投げかけられた。


              ☆☆☆その②☆☆☆


「オジサン、ほとんど素組み? なんですね~♪ 友達のサークルでも素組みが可愛いって娘 いますよ。あ、この子 タコさんみたい~♪」

 タコに見えたのは、リアルロボットアニメの極北と名高い主役ロボ。

 ゴテゴテに武装を施したミリタリーグリーンの渋い機体は、左右とも肩部の装甲だけを金色に塗ってあった。

「あれ? これ 肩だけ色 塗ってますよね?」

「あ、うん。その…」

 妄想の中の、自分専用機です。

 キッチンから覗きながら、どう説明しようかと戸惑う青年。

(さすがにこれは、女の子には意味不明すぎて ドン引きかも…)

「もしかして、オジサン専用機って事ですか?」

「なっ、なんでわかったのっ!? あわわ」

 ズバリを言い当てられて、つい素直に即答してしまった。

「友達のサークルでも、自分のイメージで色塗っちゃう娘とか いるみたいですよ~。そういうロボって大抵、とくにネットでの男性とかに訊ねると、自分専用機だって答えるって聞いてますから♪」

「そ、そうなんだ…」

 友達が多いという事は、それだけ他者への理解が深まるという事なのだろうか。

 とにかく、亜栖羽は育郎の趣味を呆れたりなんて、しなかった。

「こっちのは アクションフィギュアですか?」

 アクションフィギュアという言葉が自然に出てくるあたり、亜栖羽は一般的な女子としては、ホビーに理解がある方だろう。

「あ、うん」

 育郎の場合、アクションフィギュアといっても仮面ヒーローとかアメコミ系とかではなく、やはりロボ。

 プラモでは販売されていない、どちらかと言えばマニア好きな機体とか、同じ機体でもプラモでは発売されていない別バージョンとか。

「わ~、おっきなタコさんがいる~♪ あれ、こっちはオジサン専用機じゃないんですね~」

「ま、まあね。五月蠅い事を言うと、別メカだから」

「? そうなんですか?」

 このロボのマニアでもなければ、見分けがつかなくて当然だろう。

 色も塗り分けも施された武装も殆ど同じで、正面から見ての唯一の違いは、膝から下だけと言っていい。

「なるほど~。言われてみれば、武器の形とかも違うんですね~♪」

「うん–あ、ごめん。五月蠅く語っちゃって…」

 趣味の話に関して、つい細かいところまで話してしまうのは、その筋の人間のダメな処だ。

「いいえ、面白いです。私、こういうアニメって 見た事ありませんですし」

「まあ、このアニメは有名だけど根強いファンが支えてる。みたいな感じ–あ、紅茶紅茶!」

 慌ててキッチンに戻る育郎を、亜栖羽も追う。

「あ、私もお手伝いします~♪」

 それからしばらくの間、二人は育郎のプラモやロボの出てくるアニメの話などで、盛り上がった。

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