第八話 待ち合わせて


              ☆☆☆その①☆☆☆


 デート前日はずっと、ネットとにらめっこしながら、必死の検索。

「亜栖羽ちゃん、デートに関して、一言だけ笑ってたぞ」

『でも、礼服はなしで♪』

「デートに礼服はNGって事だけは確実だ! いや待て…そもそも亜栖羽ちゃんは礼服そのものが好きじゃないって可能性も…!」

 思考が真面目な寄り道をしてしまう、初恋青年。

「服は…ええい、あとで二駅向こうの大型ショップで、店員さんに聞いてみようっ! レストランは…お、色々なお店が広告を出してるぞっ!」

 ページのトップには、様々なお店のバナーがズラ~っと並んでいる。

 大量のお店一覧に、何だか希望の光が射してきた気分だ。

 亜栖羽とのデートをイメージして、白くてスイーツ店っぽくて、フランスを連想させるお店をチェック。

「このお店いいな…って、常時二時間待ち? こっちのお店は…え、予約が二週間待ちだって…。このお店は…もう新幹線で行く場所だ。こっちは…海外だっ!」

 最新映画も検索。

「やっぱり最初のデートは無難に洋画だよね…ネットでもそう書いてあったし。これはSFアクション…これは子供向けアニメ…これは派手なだけのアクション…サスペンスホラー…。う~ん、やっぱり初デートだし、オシャレなフランス映画がいいのかな…」

 フランスで迷子になった犬のように、同じ思考形態から抜け出せないまま、育郎の苦戦は真夜中まで続いた。

 そして、人生初の、デート当日。


              ☆☆☆その②☆☆☆


 日曜日の午前九時。

 都心の繁華街は多くの人で賑わう前の、やや静かな活気で満ちていた。

 待ち合わせスポットとしては定番すぎる犬像の前で、約束の一時間前に到着した育郎。

「うわぁ…情報としては知ってたけど…」

 犬像の前というか周囲には、それなりに若者たちがいて、みんな待ち合わせをしているのだろう。

 しかも人数的には、待ち合わせてどこかへ向かうカップルより、新たに人待ちする人数の方が多い。

「混んできたな…。みんな、待ち合わせっていうより『とりあえずここ』みたいな感じなのかな…」

 極力、犬のそばに陣取って、亜栖羽を待つ。

 犬の隣で起立する強面筋肉の大男を、行き交う人々は怪訝そうな顔で通り過ぎていた。

(服装は…大丈夫だよな…!)

 昨日、二駅向こうの大型ショップに駆け込んで、店員さんに聞きながら、必死で選んだオシャレ服。

 ライトグリーンのジャケットに赤色のシャツ。濃紺のスパッツに、同じく濃紺のシューズ。

 在宅プログラマーの日常では決して使用しないであろう大きな肩掛けバッグも、店員さんの勧めるままに買って、何を入れたらよいのか解らないまま、肩にかけてきた。

(デートコースだって…完璧だ…!)

 亜栖羽の好みが解らず、いっそ尋ねようかとさえ思ったけど、ネットで「女の子にデートコースを聞く男って最低! そういうのは男性側にエスコートして欲しいのに、サプライズもないし、なんだか頼りない感じ!」とか、書いてあった。

(映画は、小劇場だけど恋愛映画を見つけてあるし、喫茶店は小さいけど穴場なお店でっ、小物の雑貨店が多い散歩道を歩いてっ、食事だって豪華なイタリアンを見つけたんだ!)

 更にというか、プレゼントとして小さな花束も用意。

 店員さんに言われた通り、水分保持の袋に入れて背中に隠して、亜栖羽が来たら、いきなりのサプライズだ。

(うむ! どこもおかしくないよな…! 服だって、いつものジャージとかこの間の礼服じゃないし、プレゼントは喜ぶって、ネットでも書いてあったし…!)

 人生=彼女無し。頼った自信に頼る青年である。

(とにかくっ、何としてもっ! 今日のデートを成功させて、亜栖羽ちゃんに「頼れる大人」と認めて貰おう!)

 青年は燃えていた。

 待ち合わせまで、あと三十分。

 緊張しながら、思う。

(…亜栖羽ちゃんは、どんな格好で来るのかな…)

 つい色々と妄想してみるも、頭を過るのは清楚なワンピースという、ある意味ベタで貧相な発想ばかり。

 ただ、とてもに合っていて可愛いのは確かだ。

 そんな妄想に耽る事、数十分。

「ん…そろそろ待ち合わせの時間だな…!」

 遅刻は免れたけど、フと不安が過る。

(亜栖羽ちゃん、来てくれるよね…。まさか昨日までの全てが実は夢だった。とか、ないよね…!?)

 などと阿呆な不安を後押しするかのように、スマフォがコール。

「うわっ–な、なんだ? ハっ–まさか…あ、亜栖羽ちゃんからっ、お断りメールっ!?」

『やっぱり今日のデートは無しで☆』

 とかだったらどうしよう。

 恐る恐る、ポケットからスマフォを取り出して見たら、ただの広告。

「ほ~…なんだよ驚かせて~」

 安心した途端、後方から、待ち望んでいた可愛い声が聞こえてきた。

「オジサ~ン、お待たせしました~☆」

「あっ、亜栖羽ちゃん–ええっ!?」

 笑顔で手を振る少女の背後には、背の高い青年が二人、立っていた。

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