吊り橋効果ラブ?
ミートミッキーから出てきた時には、丁度スプラッシュマウンテンの時間。
茜の『ディズニーランド満喫ミッション』は、今のところ順調だ。
移動しながら、茜がみんなに百均で買ってきていたポンチョを配り始めた。
「スプラッシュマウンテンは濡れるからね」
「水も滴るいい男って言うからな! 俺はいいや」
樹はそう言って受け取らなかったが、後でちょっと後悔する羽目になった。
まあ、暑い夏日で直ぐ乾くはずなので、それほど問題は無かったようだが。
スプラッシュマウンテンの入り口には、既に長い列が出来ていた。
ファストパス専用出入り口から入ると、ちょっとした優越感を感じる。
「ファストパス取れると凄いね〜」
みんなが口々に感動していると、あっという間に、乗車場が見えてきた。
もうすぐ乗車の順番がくると言う時になって、高校生組が男女に分かれてじゃんけんを始めた。
三人ずつなので、二人席の乗り物の場合、一人余ってしまう。そこだけ男女のペアになるのは不公平だ……というわけで、最初からペアで座ることを思いついたらしい。
運命の相手はじゃんけん任せというわけだ。
さて、今回どんなペアになったかは、皆様のご想像にお任せするとして……
スプラッシュマウンテンはスピードの出るところばかりでは無く、物語の世界観も楽しめるようになっている。ただ、最後には滝つぼダイブがあるので、水に濡れるのは覚悟しなければならない。
スリルのお陰で、各カップルの二人の距離が縮まったか、はたまた離れてしまったか、いや、そもそも近く無いですね。まだ。
これから数あるアトラクションのスリルによる吊り橋効果ラブで、あるいはこの後体験するロマンティックな情景の中で、進展するカップルがいることを願って……あげてください。
スプラッシュマウンテンの乗車後、茜は直ぐにプーさんのハニーハントのファストパス取得に励んだ。が、流石に休日。取れたのは、パレードの後の時間であった。
「あちゃーやっぱり混んでいるねー。うーん、グランマのお店開くまでまだ時間があるし……よし! イッツ・ア・スモールワールド先行っちゃおう!」
茜はそう言うと、もう歩き出している。幸い待ち時間三十分の表示。
茜の『ディズニーランド満喫ミッション』は、早くも修正を迫られたが、次の案も用意済みのようで心強いかぎりである。
最後のダイブで、びしょ濡れの男一人を連れて、イッツ・ア・スモールワールドへ。こちらは比較的一台に人数が乗れるので、進みが早い。
可愛らしい人形たちの世界旅行に、みんなでワイワイ言いながら乗れる癒しのアトラクションだ。
残念ながら今回はじゃんけん大会は無し。でも、みんなで同じ船に乗れたので、楽しそうだった。
世界旅行の後は、グラン・マ・サラのキッチンへ。
朝が早かったので、みんなお腹もいい具合に空いていた。
十一時前なので、広い店内はまだ席が空いていた。大人数で食べるには場所の確保が一番難しい問題なので、早めに昼食は良い判断だったようだ。
比較的ボリュームのあるメニューも揃っているので、体育会系男子の胃袋も満たしてくれる。
昼食の後は、自由行動になった。
パレードの時間と見学する場所を確認し合うと、みんなそれぞれ散っていくことになる。
三人娘は乗り物に乗るよりも、シンデレラ城の中を見学したり、フォトジェニックな場所での写真撮影をしたいようで、行く順番の相談をしている。
三人男子は乗り物にも乗りたいが、女の子たちとも一緒に行動したい。
耳をダンボにして、三人娘の話を聞きながら、計画を立てるフリだけしている。
そんな高校生組の様子を、大人組はにやにやしながら眺めていた。
「陽人君も若いんだから、樹たちと一緒に回ってもいいんだよ。どうしたい?」
気になった茜が声を掛けたが、陽人は大丈夫ですーとにこやかに答えた。
「いや、みちるちゃん達と一緒ってほうがいいかもしれないよ」
良平が面白そうに言った。
「とんでもない!」
真面目な陽人は即座に断った。
「いや、みちるちゃん達がってことだよ。陽人君なら、紳士的にエスコートしてくれるからね。樹より頼りになるはず。写真撮ってくれる人もいて欲しいと思うしね」
良平が笑いながら付け加えた。陽人はドギマギして固まっている。
「良平、純粋な陽人をからかうなよ」
頬杖をつきながらいつも持ち歩いている懐中時計を眺めていた滝川が、慌てて助け舟を出す。時計をポケットにしまい込みながら、良平を一睨み。
「ごめん、ごめん」
「そうだよね〜陽人君いないと、葵が寂しいもんね〜」
「まあな」
茜のからかうような言葉に対して、そっぽを向きながらも素直に認める滝川に、茜と良平は意外そうな顔をした。
今までだったら、即座に否定していただろうに。
意地っ張りで、他人に甘えるのが下手だった滝川。
鎧を纏い、他人に踏み込まず、踏み込ませず、孤高の人のような生き方をしてきた。
そんな滝川が、陽人にだけは素直に弱みを見せるようになってきている。
それだけ陽人を信頼している証だろう。
そして滝川自身も、他人に頼っても崩れないだけの強さを身につけたように感じられた。
茜と良平は、安心したように目を見合わせる。
もう大丈夫。陽ちゃんも安心しただろうなと茜は胸を熱くした。
滝川の言葉に、陽人も嬉しそうに笑った。
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