光の園

 伊豆ぐらんぱる公園のイルミネーションは、六百万球の光で覆いつくされ、まるで光の花畑のようだった。デートの最後を締めくくるのに、うってつけの場所だ。


「お前たち、二人で回って来いよ。俺たち適当にゆっくり歩いていくからさ」

 良平と茜に、滝川がそう声を掛けた。二人は頷いて、肩を寄せあって歩いていく。その後ろ姿を見て、陽人はちょっとおかしくなった。この二人と滝川さんが出かけても、確かにお邪魔虫だ。


 茜さんは、滝川さんが距離をとっているって心配していたけど、一緒に行きたがらないのは、当たり前だよなー


 思わずくすりと笑った。

「うん? どうした?」

「良平さんと茜さん、お似合いのカップルですね」

「まあな。あんなガサツな茜が、良平みたいないい奴と出会えたのは奇跡だと思うぜ」

 言っていることは酷かったけれど、言い方は優しかった。


 本当はすごく嬉しいんだろうな。茜さんも良平さんも幸せそうだから。


「俺が一緒で良かったですね。滝川さん!」

「全くだよ! 一人であんなリア充見せつけられて、我慢していられるかっ!」

 

 道なりに歩いていくと、光る椅子なども置いてあって、たくさんのカップルが写真を撮り合っている。

「イルミネーション、こんなに広いと圧巻ですね。綺麗だなー」

「まあな。でも俺はこんなギラギラした光より、蛍の儚げな光の方が好きかな」

 滝川は高校の時に見に行った蛍鑑賞の事を思い出して、思わずそう言った。


 あの時は良平と茜……陽も一緒だったな。


 波打つように動く光の中に、滝川の穏やかな横顔が浮かび上がる。

 優しい表情に気づいていないのは、恐らく本人だけだろう。


 陽人はそんな滝川の様子に思わずクスリと笑った。

「なんだよ? なんか変な事言ったか?」

「いいえ」


 滝川さんって、案外ロマンチストなんだな~


 そう思ったけれど、口にすれば滝川は困ったような怒ったような顔になるのが目に見えているので、口には出さなかった。


「今日はありがとうございました!」

「別に、連れて来てくれたのは、俺じゃないだろ」

「そうですけど、滝川さんが行くって言ってくれなかったら、俺も付いて来れなかったから」

「楽しかったか?」

「すっごく!」

「なら良かった」

「滝川さんは?」

「うん?」

「滝川さんは楽しかったですか?」

「……まあな」

「じゃあ、良かったです!」

 滝川は少し驚いたような顔をして、次に照れ臭そうに目をそらした。


 

 次の週の木曜日、まだ夜の明けきらぬ頃、静かに軽トラのエンジン音が遠ざかっていった。


 こんな朝早く、滝川さん出かけたんだ。どこに行ったんだろう……


 そう思いながら、陽人はまたひと眠りしてしまった。

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