笑顔の写真

「おはよう」


 次の日の朝、滝川はいつもと変わらずに起きてきた。

 そして、陽人はるとの顔を見るとぽつりと言った。

「陽人。色々ありがとな」


 陽人は嬉しくなって、

「はい! 少しでもお役に立てたなら、嬉しいです!」

 と笑った。

 滝川はその笑顔を眩しそうに見つめた後、またぽつりと言った。

「じいさんの言葉通りなら、陽人は俺の家族だな」

「え!」

「俺が陽人を支えられているかは分からないけれど、お前は俺を支えてくれた。だから、お前は俺の家族だ」

 陽人は心がじんわり温かくなるのを感じた。


 俺に、もう一度家族ができたんだ!


 陽人は、見知らぬ町の片隅で絶望していた、あの夜の自分に思いをはせた。

 あの時の俺は、凄く寂しかったんだ。頼る人も無くて、本当は心細くてたまらなかった。

 

 今では遠い昔の出来事のように思えるあの夜の出会いは、茜の言う通りだったのだろう。


 家族! こんなに温かくて嬉しい言葉だったんだ……


 そして、陽人も滝川に伝えたくなった。


「滝川さんも、俺のこと支えてくれています! だから、滝川さんも俺の家族です!」

「そうか……なら、良かった」

 そう言って、滝川が笑った。

 本当に、自然にふわりと笑ったから、陽人は思わず心の中でガッツポーズをした。


 陽さん! 見ましたか! 

 滝川さん、笑いましたよ。スッゴくいい笑顔でしたよ!



 仕事から帰ってきて、夕飯を食べた後、滝川はまた作業場に籠っていた。

 陽の机の余った端材を眺めて、あれこれ思案している。

 

 これで、茜にもなにか作ってやろう。

 多分、茜と良平の結婚は秒読みに違いない。新居にも使えそうな……例えばリモコンケースとかカトラリーケースとかぐらいだったら作れるだろう。


 良平は俺が立ち直るのを待っていてくれたんだろうな。でないと茜が重荷を下ろせないからな。悪い事したな……

 お詫びに、良平ご所望の夫婦椅子めおといすでも作ってやるか。



 ☆ 退院したらやりたいことメモ ☆

 

 今更だけど、あのメモの内容を二人にも、陽人にも協力してもらって実現していこう。


 茜と一緒に化粧品を買いに行くっていうのは、流石に無理だけどな。


 思い出して、苦笑いをする。


 アルバムに貼られている、陽と茜と良平と葵の四人の写真。

 それぞれメンバーが入れ替わり立ち替わり撮っている写真がたくさんあるのだが、正面から撮った写真になると、葵は笑っていない。

 というより、実は笑った写真はない。


 一枚を除いては……


 アルバムの奥深く、こっそりと貼られていたその写真は、多分サッカー部の練習試合の時のもの。

 ゴールが上手く決まった後の、その一瞬をとらえた写真だった。


 陽の奴、いつの間にこんな写真撮っていたんだろう。

 

 写真の横にはハート型のシールと、『Love あおくん』の文字。


 これからは、少し笑顔の練習をしよう。


 もしもうまく撮れたら、このアルバムに追加してやるからな。


  陽!

  待っていろよ!

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