Episode 3 支える机
ドライブの誘い
滝川は太陽が好きだった。
太陽の日差しを浴びていると、温かく包まれているような気分になれる。
だから、一日の中で何度も浴びに出る。大工と言う仕事は、それが可能だったから、滝川にとってピッタリの仕事だと思っていた。
土曜の朝早く、雨戸を開けると雲一つ無い空が広がっていた。太陽はまだ、東の地平線近くでのろのろしているけれど。
「今日もいい天気になりそうだな!」
「陽人君いる?」
朝食の準備をしていると、玄関ベルが鳴って、
陽人が慌てて玄関の扉を開ける。
「おはよ! 陽人君、今日暇?」
「おはようございます!」
陽人は茜の元気な声に圧倒されながら挨拶した。
「また、お前か」
「葵のことなんか、呼んで無いし~私は陽人君に声かけているだけだし」
滝川が台所から顔を出して、シッシッと手を振る。
「葵といても、どこも連れて行ってくれないでしょ。あいつ埃をかぶった骨董品みたいに、どっこも遊びにいかないのよ。つまんないよねーだから陽人君、良かったら一緒にドライブ行こうよ!」
「え?」
「お前! 陽人にちょっかい出すなよ!」
「あら、自分が誘われないからって、やっかんじゃって。心配だったら、葵も来ればいいじゃん」
「お前なー」
滝川がほとほと参ったと言う感じで首を竦める。
「お前と出かけるくらいなら、家で昼寝していたほうがマシってことだ」
「何よ!」
「それにドライブって、お前車持ってないくせに。俺の軽トラあてにしているんだったら、計算ちがいだったな。軽トラは三人乗れないんだよ! あ、お前荷台で十分か」
「ほんっとに、葵って失礼な奴! 車はあります」
「もしかしてお前の運転? 危ない危ない。命が危ない」
茜はフンっと鼻で笑うと、
「私の車じゃありません。りょ……」
「俺の車、俺の運転だったら、一緒に行くだろう?
「
滝川は玄関口に現れた青年に目を向けた。
「久しぶり!」
滝川の事を『葵』と呼んだ青年は、滝川より少し背が低く、眼鏡に細面の穏やかな雰囲気の青年だった。
「良平、久しぶりだな」
そう答える滝川のちょっと嬉しそうな顔を、良平と呼ばれた青年はニコニコして見ながら、
「実は、俺車買ったんだよ。せっかくだから、今日は遠出してみようと思ってさ。葵も一緒にいこうよ」
と重ねて言った。
「いや、俺は……」
「陽人君、彼が、私の彼氏の
茜は少し自慢げな表情で陽人にそう紹介する。
「君が陽人君だね。大山良平です。よろしく!」
良平は、陽人の方へ視線を向けて丁寧に挨拶した。
「あ、
滝川と茜の、勢いのある会話を、登場するだけで、スーッと落ち着かせるような、知的な雰囲気の人だと思った。
この人も、昔からの知り合いっぽいな。『
「陽人君も、一緒に行こうよ。今日、何かやらないといけない用事あるのかな?」
「いえ、それは無いですけど……お邪魔では?」
「陽人君の歓迎会も兼ねてどうかしら?」
「俺の歓迎会?」
「そうそう、まだやってなかったもんね。いこいこ!」
「あの、それは……」
歓迎会と言ってくれるものを無下にも断りづらいと思い口ごもっていると、
「迷惑だったかな?」
良平がすまなそうに言った。
「いえ! そんなとんでもない! 嬉しいです!」
「じゃあ、決まりー!」
茜の一言で決着がついた。
「陽人、無理しなくていいんだぜ!」
滝川が間に入ろうとしたが、
「心配なら、葵も付いてきなさいよ。どうせ、あんた暇なんだからさ」
痛烈な一言で、滝川の負けが決定した。あきらめたように頷く。
「わかった。朝飯食べたら出発しよう」
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