伊豆へ
二人が朝食を食べている間、どこへ行くかの相談になった。
「陽人君、どこ行きたい?」
「どこと言われても……俺あまりドライブ行ったことなくて」
前の職場の仲間と、何回か出掛けたことはあったが、シフトの関係でなかなか休みが合わせられなかったし、車を持っている仲間も少なかった。
ドライブ! 楽しみ!
陽人がワクワクした気持ちで考えていると、
「私、ぐらんぱる公園のイルミネーション見たいなー明日も休みだし、ちょっとくらい遅くなっても大丈夫でしょ?」
「お前な、陽人に聞いたそばから、自分の意見言うなよ」
滝川が突っ込む。
「陽人君、伊豆でも大丈夫?」
良平がその場の雰囲気をなだめるように、にこやかに尋ねてきた。
「あ、はい! 俺もイルミネーション見てみたいです!」
「やったー! やっぱり陽人君は、優しい。どっかの誰かさんと違って」
茜は素直に喜んで、伊豆高原へのドライブが決定した。
支度をして外に出ると、ブルーの新しい車が停まっていた。
「新車か?」
「そう見えたらラッキー。実は中古だけどね。走行距離少ないの見つけて、これは買いだ! と思って、衝動買いしたんだ」
「珍しいな、衝動買いなんて」
良平と話す滝川は、肩の力が抜けていて穏やかな様子だった。
滝川さんは良平さんの事をとても信頼しているんだろうな。
運転席に良平、助手席に茜、後ろの席に滝川と陽人が座った。
車の中で簡単な自己紹介をしてくれた。
みんな凄い人達だなー
「陽人君は、イタリアンレストランに勤めていたんだったわよね」
茜が振り向いて、今度おすすめイタリアン料理教えてねーと付け加えた。
西湘バイパスを降りて伊豆半島の入り口に差し掛かると、案の定かなり混んでいて、車が進まなくなった。
「土曜だから、やっぱり混むか」
「これじゃあ、いつ辿り着けるかわからないわね~」
しばらくそのまま渋滞にはまって進んでいたが、滝川が思わずと言う感じに声をかけた。
「良平、お前、山道運転できるか?」
「いや、あんまり得意では無いけど」
「俺が運転しても良かったら、抜け道いくか?」
「え! そんなの知ってるのか」
「以前仕事で、伊豆高原の別荘の修繕に通っていたことがあってさ。この辺りの道は詳しいんだよ」
「えー。骨董品のくせに~」
「誰が骨董品だ!」
「じゃあ、葵頼むよ」
運転を変わると、滝川は鮮やかな運転テクニックで、次から次へと抜け道を通って進んだ。
隣の席に移って来た茜は、興味深々で陽人に話かけてきたので、陽人は景色よりも話に時間を割かれたが、三人の面白いエピソードも色々教えてくれたので、大分緊張が解けてありがたかった。
抜け道は確かにカーブのきつい道も多く、別の意味で眺めの良い道も多かった。でも、そのお陰で、お昼を少し過ぎた頃には、目的地付近に到着した。
「すごいね。本当に着いちゃった」
「昼どうする? 寿司でもいいか?」
心当たりがある様子で、滝川が提案した。
「寿司! 寿司! 食べたいー」
茜の言葉に、了解! と言って滝川は、今度は海沿いの細い抜け道へ入った。
十分ほど進んだところに、小さな漁港が見えて、その並びに数軒の店が並んでいた。
滝川は駐車場に車を停めると、『要寿司』と書かれた看板の店へと誘った。
「葵、本当に詳しいんだね。お陰で助かったよ」
「悪いな、運転しちまって。後は頼むよ」
店内に入ると、店主が滝川に声を掛けてきた。
「あれ、滝川君じゃないか! 久しぶりだね」
「おやじ、久しぶり! いつもの奴もくれる?」
「了解! 座敷でもいいかな?」
「ああ」
四人で奥の畳の席へ座る。店内には他に二組ほど座っていた。
出されたお茶と手拭きで一息着いたところで、茜が言った。
「葵、出不精だと思っていたけど、いろんなところに詳しいんだね。意外! これなら、いつでもデートのエスコートできるじゃん」
「うるせえ! 勝手に言ってろ」
「そう言えばいつものって何ですか?」
陽人が尋ねると、
「この店、裏メニューがあって、海鮮山盛りの巻物が出てくるから」
「じゃあ、それ以外の物を頼めばいいんだね」
良平が心得たように追加メニューを決めていく。
こういうのを、あうんの呼吸っていうのかな。滝川さんと良平さんって、多くを言わなくてもわかりあってる感じがする。
陽人は彼らの仲の良さを感じて、嬉しくなった。そして、こんな素敵な仲間の中に自分も入れてもらえて、良かったなぁと改めて思った。
さすがに漁港の傍だけあって、海鮮は新鮮で美味しかった。
「あー美味しかった。この後、どうする? せっかく海沿いに来てるから、海でも見に行こうよ。まだまだイルミネーションまで時間あるし」
茜の提案で、城ケ崎海岸の吊り橋を見に行くことになった。
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