伊豆へ

 二人が朝食を食べている間、どこへ行くかの相談になった。

「陽人君、どこ行きたい?」

「どこと言われても……俺あまりドライブ行ったことなくて」

 前の職場の仲間と、何回か出掛けたことはあったが、シフトの関係でなかなか休みが合わせられなかったし、車を持っている仲間も少なかった。


 ドライブ! 楽しみ!


 陽人がワクワクした気持ちで考えていると、

「私、ぐらんぱる公園のイルミネーション見たいなー明日も休みだし、ちょっとくらい遅くなっても大丈夫でしょ?」

「お前な、陽人に聞いたそばから、自分の意見言うなよ」

 滝川が突っ込む。

「陽人君、伊豆でも大丈夫?」

 良平がその場の雰囲気をなだめるように、にこやかに尋ねてきた。

「あ、はい! 俺もイルミネーション見てみたいです!」

「やったー! やっぱり陽人君は、優しい。どっかの誰かさんと違って」

 茜は素直に喜んで、伊豆高原へのドライブが決定した。 



 支度をして外に出ると、ブルーの新しい車が停まっていた。

「新車か?」

「そう見えたらラッキー。実は中古だけどね。走行距離少ないの見つけて、これは買いだ! と思って、衝動買いしたんだ」

「珍しいな、衝動買いなんて」

 良平と話す滝川は、肩の力が抜けていて穏やかな様子だった。


 滝川さんは良平さんの事をとても信頼しているんだろうな。


 運転席に良平、助手席に茜、後ろの席に滝川と陽人が座った。

 車の中で簡単な自己紹介をしてくれた。


 山下茜やましたあかねは小学校一年からの滝川の知り合いで、高校までずっと一緒の学校だった。文系の大学を卒業した後、地元の信用金庫に就職。今度口座を作りにおいでと勧誘された。

 大山良平おおやまりょうへいは高校からの付き合いで、滝川とはサッカー部で知り合った。当時から冷静沈着。サッカー部のキャプテンも務めていた。理系の大学院卒業後、企業の研究所に勤務している。


 みんな凄い人達だなー


「陽人君は、イタリアンレストランに勤めていたんだったわよね」

 茜が振り向いて、今度おすすめイタリアン料理教えてねーと付け加えた。


 西湘バイパスを降りて伊豆半島の入り口に差し掛かると、案の定かなり混んでいて、車が進まなくなった。

「土曜だから、やっぱり混むか」

「これじゃあ、いつ辿り着けるかわからないわね~」

 しばらくそのまま渋滞にはまって進んでいたが、滝川が思わずと言う感じに声をかけた。

「良平、お前、山道運転できるか?」

「いや、あんまり得意では無いけど」

「俺が運転しても良かったら、抜け道いくか?」

「え! そんなの知ってるのか」

「以前仕事で、伊豆高原の別荘の修繕に通っていたことがあってさ。この辺りの道は詳しいんだよ」

「えー。骨董品のくせに~」

「誰が骨董品だ!」

「じゃあ、葵頼むよ」

 

 運転を変わると、滝川は鮮やかな運転テクニックで、次から次へと抜け道を通って進んだ。

 隣の席に移って来た茜は、興味深々で陽人に話かけてきたので、陽人は景色よりも話に時間を割かれたが、三人の面白いエピソードも色々教えてくれたので、大分緊張が解けてありがたかった。

 抜け道は確かにカーブのきつい道も多く、で眺めの良い道も多かった。でも、そのお陰で、お昼を少し過ぎた頃には、目的地付近に到着した。

「すごいね。本当に着いちゃった」

「昼どうする? 寿司でもいいか?」

 心当たりがある様子で、滝川が提案した。

「寿司! 寿司! 食べたいー」

 茜の言葉に、了解! と言って滝川は、今度は海沿いの細い抜け道へ入った。

 十分ほど進んだところに、小さな漁港が見えて、その並びに数軒の店が並んでいた。

 滝川は駐車場に車を停めると、『要寿司』と書かれた看板の店へと誘った。

「葵、本当に詳しいんだね。お陰で助かったよ」

「悪いな、運転しちまって。後は頼むよ」

 

 店内に入ると、店主が滝川に声を掛けてきた。

「あれ、滝川君じゃないか! 久しぶりだね」

「おやじ、久しぶり! いつもの奴もくれる?」

「了解! 座敷でもいいかな?」

「ああ」

 四人で奥の畳の席へ座る。店内には他に二組ほど座っていた。

 出されたお茶と手拭きで一息着いたところで、茜が言った。

「葵、出不精だと思っていたけど、いろんなところに詳しいんだね。意外! これなら、いつでもデートのエスコートできるじゃん」

「うるせえ! 勝手に言ってろ」

「そう言えばいつものって何ですか?」

 陽人が尋ねると、

「この店、裏メニューがあって、海鮮山盛りの巻物が出てくるから」

「じゃあ、それ以外の物を頼めばいいんだね」

 良平が心得たように追加メニューを決めていく。


 こういうのを、っていうのかな。滝川さんと良平さんって、多くを言わなくてもわかりあってる感じがする。


 陽人は彼らの仲の良さを感じて、嬉しくなった。そして、こんな素敵な仲間の中に自分も入れてもらえて、良かったなぁと改めて思った。

 

 さすがに漁港の傍だけあって、海鮮は新鮮で美味しかった。

「あー美味しかった。この後、どうする? せっかく海沿いに来てるから、海でも見に行こうよ。まだまだイルミネーションまで時間あるし」

 茜の提案で、城ケ崎海岸の吊り橋を見に行くことになった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る