第十二段 大波止(おおはと)
大波止はその昔、駅と魚市を抱えていたために、長崎の拠点の一つとしてその存在を示していた。
今でこそ、魚市と長崎駅が北へと移ったがために、大型複合施設のある場所としての意味しかないが、往時を思えば県庁を浜町と大波止の真ん中に作ったのは非常に合理的であった。
それに加え、以前は大波止から県庁へ続く道は石畳で飾られていたという。
その事を思うと、昭和中期の長崎は異国文化と港文化をこの地に凝縮し、精製して象徴にしていたことが分かる。
少なくとも、今のように観光地を点としてしか活用せず、面として広げることを忘れてしまった人々よりも文化を大切にしていたことは明らかである。
さて、このように文化的な側面を失いつつある大波止周辺は現在、複合商業施設を中心に動いている。
このすぐ南側には複数の飲食店がテーマパークの代わりとして存在しており、北側には港が隣接している。
ここから、私達は伊王島などへと向かうことができる。
私がそれらの離島群へと向かったことは一度しかないが、それでも、長崎が潮風と小さな島々から始まったのではないかという妄想を働かせるには十分であった。
また、対岸にある神の島岸壁を一望することもできる。
この岸壁には一企業の造船所が延々と連なっており、長崎は企業城下町であるということを思い起こさせる。
そうした意味では、大波止はいまだに長崎の社会を象徴し続けているのかもしれない。
そして、大波止といえばくんちの際に出店が連なる一角でもある。
子供らの多くはその事実をのみ知るが、実はここが諏訪神社に眠る神の保養の地であることを知らない。
『御旅所』という場所がそれであるが、私がくんちで大波止へ行く理由はそれしかない。
毎年、私はそこで静かに、長崎への感謝を捧げる。
秋祭り 子らの笑む声 朗らかに 無邪気な年を 一人楽しむ
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