第二七段 対馬
対馬は長崎市の遥か北方、長崎よりもむしろ福岡に近い場所に位置する島であり、古来より大陸との緩衝地帯となってきた場所である。
以前、韓国で竹島問題が酣となった際に対馬は韓国の領土であるなどという意見が出たほど、地理的には韓国にも近い。
ここで韓国の掘り出してきた対馬藩の二重外交の資料を相手に話をする気はないが、晴れた日には韓国本土が望める場所すらある。
そして、この島の近くには暖流が流れており、そのため、豊かな海が広がっている。
対馬へは高二の頃に訪れたきりであるが、それにしては印象の深い土地である。
今でも、目を閉じればその時の旅路が瞼の裏に明瞭に浮かぶ。
よく、この世の『楽園』を求めて南方の島々へと向かう人の話を聞くが、私からすればこの島こそがまさしく、楽園、であった。
ただ、フェリーで行く場合には博多より四半日をかける必要があり、それなりの時間的余裕が必要となるのが玉に瑕ではある。
それでも、その船上のひと時も、なに、楽園を彩る一部になるのである。
対馬の良さを一言で述べよといわれれば、そのような言葉などこの世に存在しないと私は反論する。
豊穣の海と「ちはやぶる」神代の自然、柱時計の刻んでいるような暖かなとき、そして、ひと。
この全てが、宝であり、輝きであり、地球である。
和の国にある原生の美しさを、益荒男の美しさを体現した地、それが対馬に最も相応しい言葉ではないか。
この美しさを最も味わったのは、蟹取りをした時であった。
小船の上で槍を構えて深い闇を湛えた水底を照らし、瞬時に狙いをつけ、放つ。
穂先で蠢く蟹を思いながらも、緊張から放たれて漆黒を仰ぐ。
その時の星空は、感動などという陳腐な言葉では表現できなかった。
星月夜 刃先に喘ぐ 蟹の
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