第三八段 茂里町・福田の遊園地

私が巣立つ三年ほど前に長崎は茂里町に「みらい長崎ココウォーク」と呼ばれるバスターミナル兼大型商業施設が完成した。

元々はこの地に長崎バスの営業所があったのだが、そこから居並ぶバスが消えて箱物ができたのには驚かされたものである。

殊にのんびりと回る観覧車の雄姿というのは、自分でも驚くことに概ね好意的に捉えることができた。

というのも、この観覧車は福田に存在した長崎遊園地以来にこの地で屋外の大型遊具を拝むことができたからである。


長崎遊園地、通称「福田の遊園地」は幼少の頃に訪ねてからまもなく閉園した施設である。

小学三年生の頃ではなかったかと思うが、そのような時分ではいつの間にか消えていた、という印象が最も強かった。

その後も長崎はオランダ村やハウステンボスなどのテーマパークを抱えていたが、子供が純粋に楽しめるという意味では唯一の楽園の喪失である。

長崎の老衰というのは私が気付かなかっただけで、もう足音が忍び寄っていたのだろう。


さて、この「福田の遊園地」の思い出は必ずしも私にとって明るいものばかりとは言い難い。

それでも、いくつかの家族で出かけていたのでお化け屋敷に入ろうという話になったそうで、親は外で待つこととなった。

その中で入口から動こうとしない私の母に向かって、訝しんであるお母様が尋ねたそうである。

「あら、出口に移動しないんですか」

「うちん子はこっちでよか。」

それから間もなくして、泣き喚きながら入り口から飛び出す小さな影があり、それを恐らく笑いながら抱き上げたのだろう。


何を隠そう、この幼子が昔の私である。


 世も知らず 泣き喚く子も 闇と消え いずれに残る 思い知らずや


長崎を発つ前日にも「福田の遊園地」を意識したかの観覧車を目にしたが、未だに私の泣き声が聞こえたような気がした。

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