第二一段 道ノ尾
『影』という言葉が、私の幼少期には常に付き
むしろ、『影』そのものが成立させていた存在であるのかもしれない。
その『影』には三つあり、母の病死への恐怖、自らの持病、そして、持病に因ったイジメ。
そもそもが、私の幼少期を彩る『友人』は驚くほど少ない。
小学生の頃に話を絞れば、『友人』は僅かであり、『敵』は無数に存在した。
それが劇的に変化するのは中学生の頃であり、それ以後は『敵』も友人へと変化した。
それこそ、イジメも持病も人生の『スパイス』へと変化してゆき、今では私の中でも笑い話の種となっている。
それでも、未だに暗い影を落すのが母の喪失に対する恐怖感であり、道ノ尾はその象徴であった。
北の果て 我が母逝くを 見据えつつ 秋の夕暮 揺らぐ人影
道ノ尾は長崎市の北限であり、ここを境に長与町、時津町と交わる。
長崎の交通の要所であり、今でもベッドタウンと中心地を繋ぐ上で欠かすことができない。
だが、そのようなことは幼少期の私に関係することではなかった。
ただ、母が入院するとなれば決まってこの地の病院であり、その度に『死』を考えさせる悪夢の土地であった。
病弱であった母は私に対して常に、その『死』の覚悟をするように言い聞かせ、入院すれば必ずその一言を残していった。
壮絶である。今でも鮮明に、管で身体を捕らえられた母が病床に横たわっている姿を思い出すことができる。
道ノ尾の 母の命を 一目見ん 『影』に駆られた 少年の意志
道ノ尾を過ぎ、西方へ行くと
伯父の家に度々訪ねるのが慣わしとなっており、その近くの公園でよく遊んだものである。
思えば、幼少の頃の私には『友人』こそ少なかったものの、周りに人は多くあったものである。
天性の幸せ者であった。
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