第二二段 矢上宿

 国境 トンネル越えて 雪景色 はて長崎か 東長崎


先述した蛍茶屋を超えてさらに進むと、日見峠があり、そのトンネルを越えると東長崎に入る。

この歌はそのトンネルがいかに『異世界』へと人を誘うかを描いたものであり、この一首以上に適確な表現を求めるのは難しい。

長崎は雪の少ない土地であるのだが、それでも、東長崎に入ると吹雪に転じ、積雪というものを実感することができる。

事実、車で日見トンネルを超えた瞬間に、運転を体が拒否するほどの吹雪に見舞われた。

それ程に、この地は隔絶されたものがある。


現在、東長崎は以前よりも道が整備され、長崎のベッドタウンとしての成長を今なお続けている。

市内で新設の学校ができるような場所はここしか考えられず、過疎の進みつつあるこの地域にとってはありがたい存在であろう。

しかし、当時の東長崎は完全に郊外という名の『田舎』であるという印象が強く、崖崩れによって道が封じられたと聞けば、またかという印象を拭うことができなかった。


それでも印象として残っているのは、ここに郊外特有の大型商業施設があったためであり、休日の訪問を楽しみにしていたためである。

当時の私はデパートの屋上にある十円の乗り物に感激し、衝動を覚え、駄々をこねるような存在であり、郊外への『旅』は最高の贅沢として記憶に刻まれたのである。


そして、更なる大冒険といえば長崎県中部へ行くことであり、その度に過ぎる矢上という土地は長崎の玄関となっていた。

子供の他愛もない空想であるが、その昔はこの地が矢上宿と呼ばれる宿場であったという話もあり、あながち間違いでもなかったのかもしれない。

いずれにせよ、日常からの解放は昔から私の願望であったのである。


 冒険に 心躍らせ 矢上宿 少年勇者に 狭き長崎

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