第四八段 西海橋・外海
再会を 期して渦へと 足重ね 笑う朗らか 若さ信じて
私が西海橋に訪れたのは大学の頃が最後であるが、それも後輩が免許を取った記念に車を借りてドライブに出かけた時ではなかったかと思う。
あるいは、私の父の車を駆り出した可能性もないことはないが、ミッション車を初心者に勧めたとは考え難く、人数を考えても過積載となるから可能性は低い。
いずれにせよ、青春の一場面としては珍しくも輝かしく、西海橋の上で名物の渦潮が覗く硝子盤に揃って足を伸ばしたのは奇跡に近い出来事である。
その前後で非常に体が涼しくなる体験をしたような気もしないでもないが、そのような些細なことはどうでもよい。
また、ほかの記憶と混ざっていても、問題はない。
いずれにせよ、明るく未来を信じた若さを凌駕するだけの爽快がかの地にはあり、そこに渦巻くものは長崎と佐世保という二つの異なる文化ではなかったか。
そして、長崎と西海橋の合間にあるのが外外海であり、かの「沈黙」で有名な遠藤周作氏の文学館が横たわっている。
ここを訪ねたのも学生の頃であるが、この時は一人で原付を走らせての長旅であったように記憶している。
約三十キロの何が長旅かと思われるかもしれないが、原付の行動範囲はせいぜいが十キロほどである。
道中、道の尾を越えて三重の港を越えながら進むうちに、起伏に参ったという声が原動機から出始める。
それをなだめすかしながら進むうちに、山間から海沿いの道に出、その先の岬にシックな白い建物を認めた時の胸の躍動は今でも確と残っている。
ただ、その中以上に脳裏に焼き付いているのは茫漠と広がる海であり、隆々とした長崎の地の在り方であり、そこに燦燦と降り注ぐ陽光の艶やかさであった。
届かぬと 嘆く者あり 父の声 外海に揺らぐ 慈母を知らずや
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