第四九段 ハウステンボス
欧州の街を再現し、往時は東の夢の国と双肩を成したというハウステンボスは、しかしながら私に取っては関係のないとされた地であった。
幼い頃に訪ねたという話を聞いたでもないが、その記憶はほとんどない。
当時のハウステンボスは殊に大人のテーマパークとしての色合いが強く、鼻垂れ小僧には過ぎた地であったのかもしれない。
この地を歩き回ったのは三十路に入ってからであり、珍しくも「人」を連れてのことであった。
折しもオクトーバーフェストが行われる中であったものの、残念ながら雨が降り続き屋外でのびのびと過ごすということは叶わなかった。
とはいえ、石畳の上を雨に濡れつつ寄り添い行くというのは得難い経験であり、横に人がある故に晩秋の宵も不思議と寒さを感じなかった。
そして、この街は雨が殊によく似合う。
長崎の雨については有名な歌があるが、しどけない姿を見せる街並みを見ていると、この地に欧州に街並みを再現した慧眼に感服せざるを得なかった。
窓外を満たす雨脚の中で過ごした一夜は、しかし、その音も届かぬ夢路の中にあった。
外套に 真玉成したる 雨粒の 覗くや秘めし 甘き一言
ただ、これより以前に確かな記憶を持ってこの地を訪ねたことがあった。
某有名な理科教師の実験の催事にアルバイトとして参加した時のことである。
黄金週間の短期労働者として精一杯に務めたが、その時のことを忘れられないのは実験が良かったからではない。
いつもと同じように子供たちと触れ合えたからでもない。
一緒に働いた女性に淡い気持ちを抱いたからであり、それが異国情緒によって増長されたからである。
それ以上の関係はなかったものの、あの時を思い出すとこの街の灯りは一層艶を増すのであった。
乱れたる よを前にして ほくそ笑む 街灯秘めし 若き純情
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