第五十段 佐世保の夢・九十九島
佐世保の地を初めて自分の意志で尋ねたのは大学の頃であり、アルバイト先の仲間とともに佐世保バーガーを食べに繰り出したときである。
まさに学生らしい勢いに任せた行動であったのだが、それ以上に勢いに任せたことを三十路に入ってからすることになるとは思わなかった。
某日本海軍艦艇を擬人化したゲームのイベントが行われた際に、仕事も人も疲労も全てを投げうって参加したのである。
今の仕事において三月中旬というのは最繁忙期の合間である。
このような中で夜通し運転して県を二つも超えるなど狂気の沙汰である。
それでも、当時の私は全ての艱難をその辺りに不法投棄して一心不乱に闇を駆った。
到着したのは深夜四時ではなかったかと思う。
流石にこのような時間に空いている店などないだろうと思い、車内でそのまま眠りに就く。
車内泊は震災で慣れた。後は翌朝に広がる夢の世界に胸を躍らせるだけであった。
翌朝、イベントの開始一時間前には出ていたというのに、既に成されていた長蛇の列に度肝を抜かれる。
前日にニュースで出ていたことを知ってはいたのであるが、目の当たりにすると圧倒される。
丁度並んだ先にあった伊勢という名のラウンジを見て嬉しくなってしまった。
何の関係もないのであろうが、その名もまた有名な旧海軍の戦艦であったのだ。
この街中を縦横無尽に駆け巡った後、私は車に乗って佐世保バーガー本店へと向かった。
一つでも多くの地を訪ねたいという気持ちこそ強かったものの、そこは日曜から参加した身である。
叶わぬ願いであることは百も承知していた。
それでも、迷いつつ辿り着いた先にあったのは、黒髪の少女と沈みゆく夕日であった。
その先には九十九島の個。
凛然とした幻想郷は朱に彩られ、夢とも現ともつかぬ世界にただ、溜息を吐くばかりであった。
百につく 島を朱にと 西日差す 兵どもの 望む凪かな
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