第五一段 佐世保の朝

佐世保の地を二度目に訪ねたのは昨年のことであるが、その頃の私は身持ちも軽くなり気ままな旅路に出る身分へと戻っていた。

とはいえ、この時は度重なる旅路故に疲労が重なり、真夜中のハッスルは見送られた。

夕方に感じた足への強烈な違和感がなければ夜の街で飲んだものをと悔やんでも悔やみきれないのであるが、いずれ訪ねる心算である。


さて、佐世保の街は軍港としての側面と市民生活を支える四ヶ町商店街を主軸とした側面とを持つ。

そのため、長崎市と同じように港町でありながらその在り様は長崎市とは大きく異なる。

その内実を市街地を縦横無尽に駆け巡って再認識したのであるが、特に、すぐ近くに護衛艦があるというのはその顕著なところであろう。

また、米軍基地などが点在するのも長崎市とは異なっており、江戸期からのものとは異なる異国情緒を成している。


その実感を得る前に再びの深夜行軍に疲れて車内で休んでいると、外から音がする。

窓外には妙齢の女性。

話を聞けば両替できずに外へ出られぬと困っているとのこと。

私も万札を崩すことは叶わなかったため、いくらか渡した。

ヘパリーゼが返礼。

この朗らかさもまた長崎らしい在り方であった。


そのような嬉しい交わりを経て朝の佐世保市街に繰り出す。

静まり返った日曜の明るさを取り戻そうとするアーケードを高らかに謳いながら進軍する。

この日、佐世保は満たされる。

満たされるために輝くのだ。

我が故郷である「長崎市街」と同様に櫛の歯が抜けるかのように失われる人並みを、それに抗い取り戻そうとする人々の力によって輝くのだ。

その希望によって満たされた街を進めば自然と歩幅は広がり、背筋は真直ぐに伸びていく。

そして、市民文化ホールの人だかりに、私は力強く頷いてしまった。


 暑き日は 人を失い 暑き日は 今や新たに 人を生み出す

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