第四七段 大村線
正真正銘の長崎の果てということでは、大村の地において他はない。
これは悪い意味ではなく、長崎空港を抱えた空の玄関口としての意味合いが強く、遠い地へ旅立つとなると世話になったことに起因する。
この地を行き来するようになったのは高校生になってからであるが、長崎空港に行く度に心が躍り、戻る度に次の旅路を願った。
いかにも青春らしい現金さであるが、今もその地が熊本駅に変わっただけでその中身は同じである。
一方で空港以外にこの地を訪ねたのは大学の頃に一人でドライブに出かけたのが唯一であり、それも経由地としての意味合いの方が強かったのであまり走り回ってもいない。
思えばもったいないことをしたものである。
自粛が解除されて三、四日ほどの休みがもらえたのであればゆっくりと回りたいものである。
さて、この地は長崎から見た場合に空の玄関であるというのは先に述べたが、それと同時に長崎第二の都市である佐世保への入り口でもある。
車で行くのであれば西海市を経由することもできるが、列車で行く場合には大村線を利用しなければ最短で行くことができない。
最短で、とここでは記しているが遠回りをするのであれば佐賀県は肥前山口まで長崎本線で進んでからの大返しを必要とする。
この大村線を経由して長崎と佐世保とを結ぶ快速列車はシーサイドライナーという優雅な名前が付けられている。
その名の通り、列車は大村湾の東をつかず離れずの妙技で淑女たる海の姿を見せつけてくる。
その奥に控えるなだらかな西彼杵半島の姿が見えれば、その景色の良さは自ずと分かるというものだ。
そして、この稜線と浪間の織り成すキャンバスに陽が傾くのを眺めながら進むひと時というのは時間の流れを忘却せしめ、古の饗宴に与るかのような至福を齎して止まない。
夜へ向かう 快速一つ 浮かびだす 波間に笑う 山並みの酔い
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