第四六段 諫早・長崎バイパス
長崎市を北に行くと諫早の地に至る。
開けた土地に工場が立ち並び、自動車や自転車の往来も多いこの地域は長崎の中でも特殊である。
ただ、それ以上に四方へ枝分かれするこの県に楔を打つように位置しており、交通の要衝としてその存在感は大きい。
この諫早へと長崎市より車で向かう場合には長崎出島道路を用いるのが今では最も早いのであろうが、昔から行き来のある人間には東長崎経由でゆっくりと行くか長崎バイパスを利用するかの二択となる。
長崎バイパスは住吉町の先に位置した川平の地より市布の地を結ぶ自動車専用道で、長崎の大動脈の一つである。
幼少の頃にはここを越えれば異界と考えていた旧日見トンネルと同様に、学生の頃にはここを長崎の陸の玄関として捉えていた。
高速道路もその近くを通っているのではあるが、味気ない看板でどのように告げられようと実感には乏しい。
それに比べて長崎バイパスは山間を急勾配と湾曲に合わせて突き進み、その先に開けた地が現れるものだからはるばる来た、という思いに包まれる。
車好きであれば堪らないだろう。
そして、諫早は先に述べたように比較的にしても平地が多いが、その住宅街の真中に学生時代の勤め先が教場を設けていた関係でよく行き来したものである。
丁度、母の終末を看取るべく休学していた時期とも重なっており、当時の生徒のことは今でも思い出すことができる。
十二月の八日ではなかったかと思うが、もう臨終も近いというので死に目には会えぬという覚悟でその日は授業に臨んでいた。
それでも、いよいよという段になって姉が勤め先に連絡を入れ、当時の上司の計らいにより急遽授業を切り上げることとなった。
その後、振替の授業を申し出て行ったが、その鮮烈な印象と諫早は私の中で一つである。
闇深し 母の命を 一人追う 声一つ無き 白き青年
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