第三十段 三重長崎新漁港
長崎の魚市は以前、長崎市内でも中心に当たる中島川にあり、流通の要を押さえていた。
その後、現在の長崎駅の裏側に移転して長崎港の奥に控えていたが、今、その跡地は漠然とした倉庫と空き地が広がる。
そして、魚市と漁港自体はさらに北方へと場所を移し、三重にその機能を置いている。
三重は長崎市でも北西端に近い場所にあり、西海橋の袂にある。
日本海と東シナ海の境目の近くにあり、対馬海流も近くを流れているため、豊かな漁獲を誇っている。
しかし、そこへの交通の便は決して良いものではなく、市街地からは半時間以上かかる。
また、周囲は「何も」ない。
それでも、この地には漁港、市場、保存、研究の全てが凝集されており、長崎における水産のおよそが凝集されている。
この地に私が最初に訪れたのは大学入学時のオリエンテーションの際であり、水産学部の持つ二隻の船に感心するばかりであった。
そのため、最初の印象は比較的にしても明るいものであり、その後に待ち受けている苦難など、微塵も存在しなかった。
一年後、同じ土地に立った私は乗船実習ということで憂鬱であり、二泊三日の後、虚ろな目をして戻ってくることとなった。
陸酔いも酷く、それから暫くは先の印象とは打って変わり、暗澹としたものしか残っていなかった。
少なくとも、二週間の苦悩の果てに要らぬ減量をさせられたという恨み節が大きかった。
そして、二度目の乗船実習では船酔いという苦難と貴重な体験とが入り混じり、必ずしも暗いだけの場所ではなくなっていった。
しかし、未だにこの付近へ来ると船酔いの印象が強く思い出され、少しだけ後ろめたさと暗さが影を落とすこととなる。
海行かば 人は波間の 藻屑たり 揺れて揺られて 耐えるひと時
思えば、海が生命の父であることを教えてくれた場所だったのかもしれない。
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