第三一段 日本海海戦古戦場

「天気晴朗ナレドモ、波高シ」


日本海海戦の折、連合艦隊参謀の秋山真之は大本営への電報にこう書き加えた。

日本の命運を賭けた一戦は長崎でも対馬の近くで行われ、バルチック艦隊の「撃滅」という戦略目標が完全に達成され、日本の完勝に終わった。

無論、この要因はいくらでも挙げることができようが、その中の一つに日本と朝鮮とを結ぶ海域の波の荒さがあった。

波が荒ければ、船は大きく煽られ、船底を海面という防御壁の中より出すこととなる。

これにより、ロシア側の艦艇は腹を海面より出すような形となり、砲弾によって痛烈なダメージを受けることとなった。

「不沈」と称された当時の戦艦を沈めることができたのは、こうした幸運に恵まれていた事もあった。


と、私は二回目の乗船実習までは考えていたのである。


無論、某球団の応援歌で玄界灘は波が荒いということを知っており、また、一回目の乗船実習でその「威力」は嫌というほど思い知らされた。

それでも、冬という悪条件が根底にあり、また、出航前の凪を見ればそのようなことはあるまいと高を括っていたのである。


それが、出航して四半日も立たないうちに猛烈な船酔いに襲われ、天地の感覚が狂い、調理場に吐瀉するという惨状となった。

泣きそうになりながら、耐え、なぜ生きているなどかと考える始末。

その中で、思ったものである。この海が日本を守護したのだと。


思い返せば、この海では様々な事件が起きており、遣隋使の派遣や白村江の戦いから日本史の劇的な舞台となってきた。

そうした歴史の凝集があの荒海だったのかもしれない。

それに、日本は中華帝国を横にしながらも、独立を保ってきた。

この国は常に、荒海と無名の努力によって生きてきたのであろう。


 海行かば 思い起こせよ 志 抱く勇士の 消えし歴史を

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