第三二段 水辺の森・新地
長崎市街はここ十年ほどで大きな変貌を遂げてきており、その中でも特に旧出島周辺は見違えるような場所へと変わった。
昔は、長崎駅から大浦天主堂やグラバー園へは寂しい風景が続くばかりであった。
それが、数年前に完成した水辺の森公園の出現により、観光都市とされている長崎の観光地が少しずつ線で結ばれるようになってきたのである。
水辺の森公園は長崎税務署の近くから大はと近くまで続く、長崎市内でも有数の公園であり、海辺と緑の融合した場所となっている。
それこそ、デートスポットにはもってこいなのかもしれないが、私はそのような目的に用いたことがない(できないとも言う)ので、いまいちそのような印象はない。
ただ、七月の末頃に行われる花火大会では多くの「アベック」を自然に見かけるので、普段からいい雰囲気の場所なのであろう。
むしろ、私からすれば水辺の森公園は長崎県立美術館の一部としての印象が強く、芸術の一部であるという感覚しかない。
以前、ある知人女性の卒業展示が行われた際には、その満足感と感傷という、本来は相容れない感情が合わさって、
「海風が沁みるな」
と、ガラにもなく「気障な悦」に浸ったものである。
それ程、今の県立美術館は良い。
一方、観光地化によって長崎から失われかけているものがある。
以前、新地のバスターミナルの近くにある銀行の周辺には、老婦の露店が複数存在していた。
蚕豆や 新地の路地を 飾る頃
しかし、その光景が途切れた時期があった。「観光地に相応しくない」という理由によって、排除されたためである。
確かに、理由としては正しい。
しかし、この排除の裏で生活が消えようとした者達もいたのである。
張りぼての 夢見の国の 裏側に 涙の枯れる 水底の陰
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