第六段 浜町
夏盛り 祭りの如く
長崎で最大の繁華街といえば浜町であり、市内に複数の商業施設が建設されるようになっても、依然として商業的価値は健在である。
流行よりやや遅れて、という観が二十一世紀に入ってからは感じられるようになったが、だからこそ長崎の古き時代を偲ばせる。
若人の憧れこそ外へと向かおうとしているが、人の熟した方々には代え難い存在である。
子供の頃、私にとって浜町は魅惑の土地であった。
軒を連ねる商店はその一つ一つが目新しく、数多の食事どころは全てが高貴な場所に思えた。
今になれば、それが何のことはない雑貨品店であったり、アメリカ文化の象徴たるファーストフード店であったりしたのだということは分かる。
それでも、このように単純無垢な感慨は今でも僅かながらに残っているようであり、時に喫茶店で過ごすひと時は愉悦と緊張とを伴っている。
愉悦と緊張とは、相容れない複雑な感情であるようにも考えられる。
だが、それほどまでに人間の感情は単純ではない。
時に、自らを縛るものの中に浸ることの方が快感になり得る。
特に、自由ということに慣れきってしまいその在り処を失ってしまった人にとってみれば、緩急の『急』にあたり、ほどよい快感になるだろう。
さて、その浜町も今やカフェとドラッグストアに席巻されており、昔日の観は失われている。
そのうち、文化としての浜町が失われる日が来るかもしれない。
確かに、街の変遷というものは歴史の摂理であり、この街もそうした摂理から逃れる事はできまい。
とはいえ、『場』の喪失ということを考えれば、私は寂しさを隠しえない。
寂しさや またいつ頃に 街歩き
カフェも喫茶も業態は同じである。だが、代え難いものがここにはある。
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