第七段 正覚寺界隈
長崎で唐寺といえば正覚寺が最大のものであり、その朱に塗られた門が寺町の始まりを告げる。
寺町といえばキリスト教包囲網の主戦場であり、江戸幕府が行った鎖国の象徴の一つである。
歴史を現代の視点で裁くことは避けるが、この国が宗教に大らかであることはこの先必要であるように考えられる。
まあ、話が大きくなりすぎてしまったが、今でもこの界隈には複数の寺院・仏閣が軒を連ねており、しかし、排他的な冷たさはなく、長崎の温かさが僅かながらも残されているように感じる。
また、年の終わりには複数の寺院が除夜の鐘に合わせて炊き出しを行っており、信仰心からはかけ離れた人間にも心を尽くしてくれる。
さて、このように宗教色の強い正覚寺周辺であるが、私にとっては、安らぎの場という側面がある。
安らぎの場、と単純に述べたが、実際には心の赴くままに一献傾けるによい店が複数あるということである。
まず、チェーンではあるが焼肉屋がある。
やや高い店ではあるが、一人で飲むにはほどよい値段である。
次いで、これまたチェーンではあるがとんかつ屋がある。
本店であるようでやや高級感が高まるが、池波先生よろしく「ロースかつで酒を飲む」にはよい。
そして、何よりも馴染みのバーがある。このバーでは暗がりに合わせ、全ての時の流れが緩やかになる。
その中で頂く「ギムレット」は若輩ながら感動を隠し得ない。
本来ならば排除されても良いはずの若僧を迎えてくださる皆様が何よりの美味であるのかもしれない。
また、温かな光が映し出す「ラフロイッグ」は芳醇な香ばしさと共に淡い苦味を伴っており、至福の瞬間を与えてくれる。
仏門の 前に般若は 微笑んで 若人一人 惑う事なし
今なお、この界隈の夜は私を誘い続ける。
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