第十八段 稲佐山
長崎で最も賑う山といえば、現代では稲佐山であろう。
夏には年に一度の大規模なコンサートが行われ、その時の賑わいは目を見張るものがある。
また、長崎では珍しくロープーウェイが敷設されており、空から長崎の営みを望むことができる。
長崎西方の砦としてその姿は重々しく、しかし、赤の電波塔がそこに茶目っ気を与えている。
稲佐山といえば、夜景であるという人も多いであろう。
稲佐山の東方は市街に向かって開けており、その眺望を遮るものは何もない。
前段で唐八景からの絶景について論じたが、稲佐の景色の方が一般には受けがいいようである。
観光地として確りと整備されており、ガイド本を見ればよく掲載されているようである。
また、逢瀬の場としても好まれているようであり、夜には男女の姿が散見される。
車も男が意気込んで運転したものが多く止められており、私などはあの狭い道をよくもまあと考えてしまう。
それ程、長崎における「男の戦い」は熾烈であるのかも知れない。
しかし、稲佐山が整備された公園である以上、こうした大人の思惑とは裏腹に子供たちの無邪気な笑い声も絶えることはない。
遠足できたという一団もあれば、家族連れでのんびりとしているものもある。
私も昔はこの一部であり、春風に吹かれながらひと時の安らぎを感じたものである。
今でも、この地を訪れて安らぎを求めることがあるが、以前とは全く異質なものとなってしまった。
日常で「孤独」と闘う必要がなくなったためかもしれなければ、一人で赴くようになったためかもしれない。
ただ、変わらずにそこにあるのは変遷する長崎の情景とそうしたものを喜ぶ人間を横目に眺める鹿だけである。
稲佐山 映し尽くして 鶴の海 人を哂った 小鹿の前に
呆けた顔で、鹿は私を見つめる。しかし、その目は白痴な人間を見るものであった。
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