第三段 田上(たがみ)・大浦

白糸より下ると小島に行くが、上れば田上ないし早坂に着く。

田上は浜町と茂木を遮る壁の頂点であり、向かいに進めば、海へと繋がる。

また、西へと下れば大浦に流れ、そのまま戸町に進む。

このような地形であるため、以前はバスのターミナルが存在していた。

今では、この一角は長崎南環状線を繋ぐ動脈として整備されており、その形を変化させつつも役割は引き継いでいる。


子供の頃、この田上に来ることは一つの事件であり、私の小さな冒険心を刺激するには十分すぎる出来事であった。

そのため、バスや親の車で坂を登るだけでは飽き足らず、進んで登山(と言うほどのものでもないが)に挑戦したものである。

さすがに、それより先へと進むことはなかった(当時はここを「地の果て」と考えていた)が、こうした冒険心はやがて私の幹となったのであろう。

未だに見知らぬ土地への憧れは尽きず、踏破の喜びは何物にも代えがたい。

生長は必ずしも成長を伴うものではないのであろう。


さて、既に述べたことではあるが、この田上を西に下れば大浦に達する。

長崎三大天主堂があることで有名な大浦だが、昔はこの直下が海であったことは想像に難くない。

少なくとも、近くを制する水辺とその辺りを覆う低地は、埋め立ての傷痕としては十分である。

以前、

「グラバーがあの土地に邸宅を設けたのはその眼下の眺めに圧倒されたからである」

と、熱弁を揮われていた大学教官がいらしたが、今、その眺めを観光地と化したグラバー邸で探すのは困難であり、往時を偲ぶには相当の想像力が必要である。

とはいえ、今でも海から吹き込む風は「大浦」の名に恥じまい。


 坂を 下る下る 海原への風 今昔違う(たがう) 人を知らずや


大浦への道は一つ外れれば遊郭でもある。

往時への思いは尽きない。

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