第五四段 愛宕山・高平
先の段で述べた愛宕山の山頂には社があるが、愛宕神社はその中腹に存在している。
その近くにあった玉木保育園の跡地と玉木中高の存在はこの地域に華やぎと威容を与えていたが、それが失われたのもここ十年ほどのことである。
帰省の度に山の在り方が変わるというのは見る目を楽しませるが、見ていて愉しいかは別である。
斜面を這うように伸びる住宅街の変遷は、私が既に肥後の民となってしまったことを明示するかのようで寂しさを隠しえない。
弥太郎の青さだけはそこに変わらずにあるが、その頼もしさが沁みる。
長崎市は他の街と同様に、再開発の波に飲まれている。
これは私が長崎を発つ前から始まり、現在進行形で続いている。
県庁の移転も水辺の森の在り方もココウォークの観覧車もその一部であり、いずれもその地域における変遷の偶像となっている。
ただ、そのような偶像を持たない街並みもあり、その一つが愛宕山である。
そして、その麓の高平である。
この地域も変遷を経ているが、それでも、いまだに変わらずに残るものもある。
清水寺とちくわ店とラブホテルと。
清水寺は国の文化財として指定されており、夏には縁日も開かれることからまだ変わらずにあることは分かる。
ちくわ店もまた長崎の豊かな魚文化を思えばまだ分かる。
しかし、人がいつ入っているかも分からぬラブホテルが幼少の頃から残っているのは偉大を通り越してなんと面妖なことか。
前を通るたびに滲み出る一昔前の雰囲気も全く変わらないというのが心強くも不思議でならない。
こうした街並みを行くにつれて出てくるものは、ここも変わらずにいてくれたのか、という嬉しさである。
だが、それは本当に喜ぶべきことなのか。
そこに根を失った私の行き場のない寂寥感があるのではないか。
獣道 小路坂道 裏の道 小僧の夢を 追う根無し草
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