第四〇段 二つの大橋
長崎は三菱の城下町であるという話は、中学生の頃から親に聞かされていたように思う。
ただ、その大きさを実感したのは私が車の免許を得て旭大橋を初めて越えた時ではなかったか。
この旭大橋は長崎駅近くと三菱重工業の立神工場とを結ぶ長崎の動脈の一つである。
私の同輩は書いていたライトノベルの中でこの橋を落としているが、そのようなことをすればこの猫の額のような交通網は忽ちに動脈硬化を起こしてしまう。
そのような幹線道路を超えて飽の浦方面に至れば、そこは戦艦武蔵の生まれ故郷、威風堂々たる工場群が行く人の目を圧倒する。
そして、そのような場所でも凛然とした斜面はここが長崎であるということを否応もなく証明する。
特に、日本一の斜面と呼ばれる坂がこの近くにあり、興味本位でそこを訪ねてみたが、少しでも前屈みになれば手がつくほどの急勾配に恐怖と感服と畏怖とを同時に味わうこととなった。
さて、旭大橋以外にもこの鶴の港と呼ばれる長崎港にはもう一つの大きな橋が架かる。
それは戸町の近くダイヤランドと呼ばれる三菱の藩邸と西泊とを結ぶ広義の吊り橋である。
この西泊はそのまま先の立神工場とを結ぶため、長崎の環状線の一つとして渋滞緩和に一役買っている。
また、長崎が客船の建造や修復を担う関係上、その下を豪華客船が通れるほどに高い場所に架けられている。
そのため、この橋を初めて通った時、いや、初めての際には女神が照れたのか豪雨であったため二度目に通った時、私は危うく魅了されてハンドルを取られるところであった。
穏やかに揺れる闇の籠より、山の端に至るにつれて賑やかに伸びる灯火。
その一つ一つに息吹があり、その一つ一つに何かしらの思いがある。
その三千世界の一つは私から言葉を奪い、ただただ溜息をのみ許すのであった。
この宵は しばし待たれよ 寒の月 女神の姿 しばし留めん
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