第39話 試験が終わって
大怪我をしたフマムュを助け起こそうとして、紡玖は魔王に止められた。
「まあそう焦るで無いの。試験も終わった事だし、怪我を治してやるとするからの」
倒れ伏しているフマムュの近くに、自分で殴って蹴り飛ばしたエリザポ-ノを魔法で移動させ、まとめて回復魔法らしき光で包む。
あっという間に破れていた衣服も、見た目に痛々しい怪我も全て消え、今この瞬間から見た者なら二人の少女がただ眠っているようにしか見えないだろう。
エリザポーノを殴り飛ばした時もそうだが、まさか怪我まで治してくれるとは。フマムュをそれだけ気にしているという証拠なのだろうかと、視線を魔王に向ける。
「我は挑んでくる勇者とその仲間を、全快させてから挑戦を受ける魔王ぞ。この程度造作もないよの。まあ使えぬモノには手心を加える気は無いが」
ニヤリと黒く笑うその姿は、幼く見える見た目を差し引いてもやっぱり魔王だった。
「さて試験も終わった事だし、ここに居る意味も無くなったの。帰るついでに皆を元の場所に戻してやろうかの」
そう呟いた魔王が手を一振りすると、次々に足元に魔法陣が描かれて、その度に虚空に消えていく。
だが紡玖だけは何時まで経っても、足元に魔方陣が描かれなかった。
どうしたのだろうと不思議に思っていると、くるりと魔王が振り返って顔を向けてきた。
「さてフマムュのアタベクよ。良くあの欠陥品を、まあまあマシな程度に育ててくれたの。礼を言うぞ」
「まあまあって……まあ良いですけどね」
時間やフマムュのステータスを考慮して、引き分け狙いの回避型に育てたのは紡玖だし、試験結果は試験官の自滅で合格という拙さだ。
それに魔王が助けに入らなかったら、フマムュはもっと酷い事になっていただろうし、それに怪我も治してもらったしと、そんな引け目もあるので、魔王のその評価を甘んじて受け入れる。
「そう気落ちするでない。我の周りに居る有象無象が『無理です』と教育拒否したフマムュを、曲り形にも試験を通過させたのだ、誇りに思うが良いの」
褒められているとは思えないが、でもこんな風に魔族のトップである魔王から言われると、悪い気はしてこないから不思議である。
「だがとりあえず、これで汝の役目は終了よ。ご苦労だったの」
魔王が手を向けてくると、突如足元に出てきた魔法陣が光りだし、そして目の前が真っ暗になる。
「ちょ、ちょっと待――」
嫌な予感がして慌てて制止の声を上げて手を伸ばしても、次に目に映った光景はもうあの異世界ではなく、住み慣れた自分の部屋だった。
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