第24話 仲良く勝敗をつけな!

「というわけで、二人にはゲームをしてもらいます」

 一晩考えても優陽の提言以上の事を思いつかなかったため、喧嘩よりは穏便な方法と言う事で、二人で何かしらのゲームをしてもらう事にしたのだ。

「何が『というわけ』か分かりませんが、ゲームですか。別に構いませんが、勝ってしまっても良いんですよね?」

「ムッ。負けないもん!」

 実は喧嘩するほど仲が良いという奴では無いかと思うほど、二人は何故か乗り気だった。

 それは何故かと予想するに、チッテッキュは持ち前の能力の高さで何があっても負けないと思っているだろうし、フマムュの方は成長した事で培われ始めた自信の後押しがあるからだろう。

「じゃあ身体能力の差があるので、フマがゲームの種目を決めても良いですよね?」

「ええ勿論。どんな物で勝負しようと、お嬢様には負けませんが」

 なんだかもう対決ムードが盛り上がっているが、始まる前からいがみ合うよりは良いだろうと、優陽に言われた通りにフマムュに有利な条件での対決のため、フマムュに何をやるかを決めさせる事にする。

 フマムュもどんなゲームなら勝てるかを真剣に考え始め、古典表現だとパッと頭の上に電球が灯った様な感じで、大きな声で種目を言う。

「隠れオニ!」

 そう聞いて、確かにそれはフマムュが勝ちそうだと紡玖は思った。

 異存が無いかをチッテッキュに視線で尋ねてみると、問題は無いとばかりに大きく頷きで返してきた。

「じゃああんまり長々とやるのも何だから、時間とルールを決めよう」

 そうして隠れオニのゲーム内容を、二人を交えながら話し合いで決定する。

 時間は二十分の一本勝負。範囲はこの屋敷内と敷地に付近の森。チッテッキュが追い、隠れるフマムュは見つかってからの逃走は可。

 勝敗は、制限時間内に逃げ隠れるフマムュの身体に触れればチッテッキュの、時間いっぱいまで逃げ切ればフマムュの勝ち。

 森を範囲内に入れるのは流石に広すぎじゃないかと思うのだが、言い出したのはチッテッキュの方で。

「敷地内だけでは、ものの五分と掛からずに捕まえる自信がありますので」

 とまで言い放ってきたのだから、反対する理由も見当たらなかった。

「二人とも隠れ場所の探索とか衣服着替えたりとかの準備があるだろうし、一時間後までに外の井戸の所に集合ね」

「それではお嬢様。申し訳ありませんが、勝たせていただきます」

「ふふん。チッテッキュには、絶対見つからないからね!」

 出会った当初の弱気な態度は何処へやら、フマムュは見事な啖呵をきってみせた。

 そして離れて準備を始める二人を余所に、紡玖は子供の成長速度って恐ろしいなとどうでも良い事を考えていた。


 一時間後、三人は外井戸に集まった。

 しかし意外な事に、フマムュもチッテッキュも普段通りの服装で、今から運動するとは思えない格好だった。

 フマの方は運動の時間にもゴス調の服を着ていたのだが、でも問題なく動けるのは知ってるから良い。

 現にいま始まった隠れオニの一分間の先逃げの時間にも、つむじ風を巻き起こすかのような速さで何処かへと消えていってしまっている。

「それで、なんでチッテッキュさんもメイド服のままなの?」

「何か問題があるのでしょうか?」

「いや、もっと動きやすい服装でも良いんじゃないかなって」 

「服にはそれに見合った加護が得られるのはご存知ですね?」

「……いや、いま初めて聞いたけど?」

 初耳どころか、とんでもない重要な事をさらりと言ってきたと驚いたほど。

「ではただ待っているのも暇なので、講義いたしましょう」

 一分間ただ待っているのも時間の無駄だからと、フマムュの逃げた方向へ視線を向けつつ、チッテッキュは言葉を紡いでいく。

「服にはそれぞれの役割に合った加護があり、来ているだけで付与されます。私のこの服ならば、全体の能力を少し落として事務能力と家事能力を向上させます。白衣なら医学薬学系のスキルを。三角帽子とマントなら魔法系に。お嬢様のあの服はその中でも一級品の、防御力を主体とした身体能力の複合向上の加護が付与されます」

「なるほど、そういうところもソーシャルゲーぽいのか」

 ここにやってくる切っ掛けになる『まおいくベータ版』には無かったが、ソーシャルゲームにはそういう服装によるパラメーター強化があるのが多い。

 他にもアクセサリーや武器と回復薬だったり、舞台装置と専用曲だったりと、ジャンルで多少分かれるが。

 しかしそれらは大抵金を払って買うシステムで、押し並べて課金すればするほど良いものが手に入り、なので使った金の分キャラクターが強化される度合いも多いのが普通だったりする。

 なのでこの事は教育方法が『まおいく』というソーシャルゲームと同じと言われた時に、少しだけ深く考えればそういう事に思い至れたはずだった。

 そして服装の事に関して、思い出した事がもう一点。

「もしかして、フマがツナギ姿に嫌悪感を抱くのって、何かそれと関係があったり?」

「……そうですね。ただ単純に見た目がダサいからではないかと。機械系の技術者の多くがあの服を着ていますが、お嬢様とは無縁でしたでしょうし。さてもう既に一分は経った様ですし、私はお嬢様を捕まえに参ります」

 ぺこりと一礼してから、チッテッキュはフマムュの逃げた方向へと走り去っていった。

 服装での強化という新たな問題を手にし、紡玖は少しの間頭の横を指で掻いていたが、走り回るであろう二人のために冷たい飲み物でも用意しておくかと、調理場へと向かっていった。

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