第7話 フマムュ・スムサ

 二人が立ち去った室内の、巨大な天蓋ベッドの下から、もぞりと這い出てきたのは一人の少女。

 窓から差し込む光に反射した部分が金色に見える茶色の髪を持ち、黒を基調としたゴシック調のフリルの付いた服を身に付けた、誰か居ないかをきょろきょろと周囲を見渡す怯えたを湛えた大きな瞳を持つ、十台になるかならないかの見た目の少女。

 彼女こそが魔王の候補であり、この屋敷を魔王から与えられたお嬢様こと、フマムュ・スムサである。

 しかし次期魔王に成れるかもという触れ込みにしては、親と逸れた幼子の様に余りにも気弱そうな感じ。

 衣服から想像する体の線は細すぎて、むしろ精巧に作られた人形の様。

 そんなフマムュは、部屋に誰も居ない事を確認してから、忍び足で長椅子にあった一つのクッションを手に取る。

 昨日紡玖が使用し、若干潰れているのがお気に召さなかったのか、パンパンと平手で叩いて空気を含ませると、それを持ってまず出入り口へ。

 鍵が掛かっているのが分かってからは、暗殺者に怯える権力者の様に、出入り口からはベッドの影で見えない場所へと身を潜める。

 その後で服のポケットから取り出した小袋から、苦味が少なく余り硬く無い木の実と、乾燥させた果実を選び取り、口に運んで食べていく。 

 まだこの屋敷に来る前、右も左も分からない頃に魔王城で与えられたのに比べたら、味気無く喉が渇く食事に思わずその目に涙が浮かぶ。

 しかし泣いた所で、あの悪魔のような色黒の教育者には聞き入れて貰えないと判っているので、服の裾でぐっと目尻を拭う。

 小袋に手を入れて食べられそうな木の実を選びながら、ふと昨日あの長椅子に寝ていた人は誰なのだろうと考えた。

 人間である事は間違いないとは思った。

 人間なら味方なのかなと、抱いた淡い期待を打ち消すかのように、口に入れた木の実は大変渋かった。

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