第19話 フマムュ、アタベクを想う
壊れ物を扱う様に育てられた魔王城での生活は寂しかったし、身体が少し大きくなった頃に始まった魔王にするのだと張り切るチッテッキュのスパルタ教育は辛いだけだった。
魔王城から放されてこの屋敷にチッテッキュと一緒に住む事になってからは、怯えて逃げて隠れてやり過ごしてきた。
しかし紡玖がアタベクになってから、フマムュはとても幸せを感じている。
一緒に遊んでくれる楽しさ。
温かく美味しい食事を誰かと共にする事。
寝るときに隣に誰かが寄り添ってくれる安心感。
それはフマムュが今まで感じた事の無い、思い出すだけで幸せになる幸福の味。
それを与えてくれる新しいアタベクの紡玖の事が、フマムュは凄く凄く好きなのだ。
夜中にふと目が覚めた時には、もっと幸福を味わおうと、無理言って添い寝させてる紡玖に擦り寄る程に。
「くぁ~ぅ~……」
ベッドの中で紡玖の発する温かさに身を任せつつ、大あくびをしてまた寝に入ってしまう。
翌日朝日の光を感じて目を覚ましてみると、隣にいたはずの紡玖が居なかった。
何時もは起きるまで待ってくれているのにと、寝ぼけ眼のままちょっとだけ不思議そうに首を傾げてしまう。
そこにタイミング良く紡玖が扉を開けて戻ってきた。
「あッ、アタベク~~」
ベッドから降りてとてとてと歩いて近づいて、何時もそうするように紡玖へと抱きつき、頭を撫でてくれるのを待つ。
しかし今日は何故か待っても撫でてくれないので、如何したのだろうと顔を上げてみると、ちょっと難しそうな表情をした紡玖の顔があった。
どうしたのだろうと見上げていると、紡玖があの薄くて四角い機械を取り出し向けてきた。
そして唐突に写真を撮りたいと言われる。
何でかよくは分からなかったが撮りたいのならと、紡玖から身体を離して一人立ち、作法だと教わった通りににっこりと微笑む。
ピカッとあの機械が光り、カシャンとソーサーにカップを乱暴に下ろした様な音がする。
どんな風に取れたのかなと写真を見ようと近づいても、難しい顔でその機械を触っている。
無視された抗議を含めてギュッと抱きついてみると、紡玖が頭を撫でてくれた。
でもその撫で方はぞんざいで、意識がその機械に向いている事は丸分かりだった。
ぶすっとして紡玖の袖を引っ張ると、漸く機械から顔を離してフマムュが膨れっ面なのを見て取り、慌てて取り繕った笑顔を浮べて優しく撫でてくれた。
その感触から再度幸福を感じつつも、でもどうしたのだろうと紡玖の今朝の怪しい様子に、内心では不思議に思っていた。
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