第32話 懸念は残るも

 オニごっこでじゃれ合っている二人を見つつ、紡玖は今日からはあまりフマムュの手助けにならないなと、自分の戦力を分析していた。

 素早さが高い二人の動きはまだまだ余裕があるのに、ただの人間である紡玖には付いていける気がしない。

「まあ分かっていたことだけどね……」

 そう呟いてみても、戦力外と言われているような気がして寂しい思いが生まれる。

 フマムュもチッテッキュも楽しそうだなと、心の中のもやもやから目を逸らすように、二人のじゃれ合いを鑑賞する。

 これはこのオニごっこが始まる前に、チッテッキュに「これは遊びだから、ムキになったら駄目だよ」と何度と無く念押ししたのが功を奏したのだろう。

 二人の様子は、喜び勇んで母猫の周りを回る子猫と、適当に合わせてじゃれて遊ぶ母猫のようで微笑ましい。

 そう言い表してみて、この変わったオニごっこの本質が、良く格闘漫画で描かれている様なスローモーションの組み手を、フマムュが回避専門にチッテッキュが攻撃専門に組み直して遊びにしものだと考えれば、猫のじゃれ合いが子供に教える狩りの真似事なので、言いえて妙な気がしてくる。

 でもこの遊びを続ければ自然と、肉体言語主体で素早さの劣るエリザポ-ノの攻撃が当たらなくなる程度には、フマムュは回避型として完成するだろう。

 更にはもしかしたら『奇跡の光明』なんていう強大な魔法が、成長した事で使えるようになって、一撃で試験が通るかもしれない。

 まあ『奇跡の光明』は希望的観測過ぎるので脇に置くとしても、いま培っている逃げる技術と『焔の吐息』『伝馬の俊足』を合わせれば、長い間逃げ続ける事は出来る様になるだろう。

 後は試験の時間が何分あるかが問題だ。

 手渡された試験の詳細が記された手紙にも書いていなかったので、本当に制限時間があるのか不安だが、ここまでは『まおいく』やソーシャルゲームのセオリー通りだったため、制限時間が設けてあるだろうと楽観視することにした。

 さて恐らくフマムュはこのオニごっこでへとへとになるだろうし、蜂蜜を溶かした水に柑橘系の果汁を絞ったジュースでも作って、井戸で冷やしておこうかなと、座っていた場所から立ち上がって調理場へと向かう。

 それは二人のあの様子なら、もうフマムュがチッテッキュに怖がって、背中に隠れてくることも無いだろうという実感があったからだった。

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