第15話 誤解は重なる
異世界転移し、自分の体の上にフマムュを認めてから、如何しようとあれこれ考えていたものの、子供特有のその温かさに睡魔が誘発されて眠ってしまっていた。
しかしその選択肢は間違っていたようで、行き成りお腹にどすっと何かが突き入れられる、痛さと息苦しさと気持ち悪さをない交ぜにしたのを感じて強制的に起こされてみると、目の前にはなにやら物凄く怒った顔のチッテッキュが居た。しかも壁に押さえつけられている。
寝起きで鈍い頭では考えがまとまらず、一体何事かと目を見開く紡玖に、メイド仕事用のニコヤカな笑顔かつ無言で腹パンチを繰り出してきた。
「ぐほぉ……なんで、殴られて、るの?」
「身に覚えがないとでも仰る御積りでしょうか、この外道」
今度は顔にするぞと言いたげに、見える位置にまで硬く握られた拳が掲げられる。
殴られる恐怖心からチッテッキュの手を包んでいる手袋が、何故かボクシングのバンテージに見えてしまうから不思議だ。
と現実逃避しても事態は一向に良くはならないので、チッテッキュが怒りそうな理由はアレだろうと予測する。
「ねえチッテさん、だから誤解なんですって」
「何が誤解と仰るので。貴方の腹の上にお嬢様が寝ていたのは、私の見間違いとでも?あと、私の名前はチッテッキュです。勝手に略さないで頂けませんか」
「如何わしい事なんて何も無かったんですって。ただ一緒に寝ていたというか、乗っかられていただけなので」
「ただ、一緒に、寝た、だけ、だとぉ~?」
一区切り毎にメイドとしての表情がはがれて、最終的には激怒した地の表情が現れた。
ああこれは「ダークエルフ」という言葉が「汚らしいエルフ」に変換された様に、自動変換されたら拙い意味になる言葉を使ってしまったのだろうと、その表情から理解して殴られる覚悟を決めた。
決めたのだが、流石にチッテッキュの握った手が電光でバチバチ言い出し始めると、殴られる前だというのに後悔し始めてしまう。
勢いよく振りかぶったチッテッキュの拳が、今まさに打ち出されて紡玖の顔面に突き刺さるというまさにその時、高速で飛んできたクッションがチッテッキュの顔に当たった。
「……いい度胸ですね。転移魔法で攻撃とは」
「ちょっと待って、俺は魔法使えないってば!」
怒りの中にしてやられたといった表情を浮かべるチッテッキュに、大慌てでその勘違いを否定する。
漸くそこで紡玖には、魔法で種火を指から出すことも出来ないのだと思い出したのか、なら誰の仕業かとチッテッキュがクッションの飛んできた方向へ顔を向けると、ベッドの上に立ち投げ付けたフォームのままで固まったフマムュの姿。
「ま、まさか、お嬢様が……」
今まで隠れて現れもしなかった相手が、まさか攻撃してくるとはとショックを受けているのか、紡玖から手を離してふらりとフマムュに近づく。
一歩近づかれて硬直が解けたのか、フマムュはあっという間にベッドから飛び降りると、その下に潜り入って隠れてしまう。
「……なぁ、何でコッチが悪者みたいになってんだ、あァ!」
あからさまに避けられ、しかし紡玖を助けるためにクッションを投げ付けたという事実に、仕えるメイドとして打ちひしがれているのか、紡玖へ睨みつける目も少々弱弱しい。
「そう凄まれても、チッテさんが勝手に勘違いしたとしか言いようが……」
なだめる意味を込めて、夜にあった事――覚えているのは抱きつかれた後だったため、そこから後の事を言って聞かせる。
「……つまりは、ただ就寝していただけで、しかもお嬢様から求めたと?」
「いや、求めたかどうかは知らないから、それは直接聞いてもらわないと」
「どちらにせよ男女が一所の寝床に入るのは、それはそれで問題だと思いますが」
「そんなにおかしいかな。俺の世界じゃ小さな子をあやす為に、一緒に就寝するのは普通だけど」
また変な風に誤変換されないかと、ビクビクしながら言いつつ、ふとある事に思い至る。
「小さな女の子にでも手を出すって思われている、もしかして?」
「ニンゲンは年齢関係なく、穴があれば入れたいと考えるモノだと教わりましたが、違うのですか?」
「……また一元には否定出来ないようなことを」
紡玖の世界では小さい子はそういう対象に常識的にはなり難いのだが、手を出したロリコン犯罪者のニュースもあるので否定できない。
しかもこの世界の様に中世欧州系のハードカバーファンタジーだと、陵辱や強奪などはセットに扱われていることも多いので、この世界の人間の基準はそうなのかもしれないと理解することも出来る。
なので――
「他の人間はどうか知らないですが、俺はロリコン――小児性愛者じゃないので、手は出しませんから」
こういう風に限定した言い方しか出来ない。
「言葉ではどうとでも言えます……が、今はその言葉を信用しておきましょう。あと、朝一番から多大に疲労したので、今日一日は部屋で休ませていただきますので、ご自由になさって下さい」
言葉通りどっと疲れた様に、体から力を抜きつつ頭を一つ下げると、部屋から出て行こうとする。
よくよく観察してみると、その足取りも少し重そうだ。
しかも何時もは部屋の鍵を閉めるのに、それをも忘れて立ち去っていくので、相当ショックを受けている様だった。
「……俺とチッテさんにとって、最悪の朝だったな」
廊下を立ち去っていく足音を聞きながらそう思わず零すと、くいくいと袖を引っ張られる感触。
視線を引っ張られた方に向けると、何時の間に隠れ場所から出てきたのか、フマムュの姿があった。
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