第14話 フマムュの一念発起
長椅子の上で眠る紡玖に近づいてみようと思ったのは、単なるちょっとした思い付きだったのだろう。
食事を作ってくれていると思われる人だから、ちょっとだけ信用してもいいかもしれないとも思ったのかもしれない。
何にせよフマムュはベッドの下から這い出ると、不安感を押し潰すかの様に抱えたお気に入りのクッションを抱き潰しながら、そろりそろりと近づいていく。
毛足の長い絨毯なので足音は全くしないため、身に付けているゴシック調の服装が擦れて奏でる、シュリシュリとした小さな衣擦れ音が異様に大きく聞こえる。
手が触れられる距離まで近づき、紡玖が完全に寝ているのか確かめる為にか、指先でツンツンと身体を突付く。
突付いているのと反対の手はぎゅっとクッションを握り締めて、仮に紡玖が起きて襲い掛かってきても、何時でも投げつける事が出来るようにしている。
突付いても起きないことに漸く安堵した様子で、紡玖の顔をまじまじと見ようとして、その姿がふっと消えて、一秒後にぱっと現れた。
深夜零時に起きる世界間移動によるものだ。
しかしそんな事情を知らないため、突然の事に驚いて大きく飛び退き、ベッドの上に着地。しかしシーツを踏んで滑って転ぶ。
行き成り驚かされて信用を裏切られたと思ったのか、クッションを投げつけようと振りかぶって、しかし紡玖は変わらない様子で眠ったまま。
驚かしてきたのではないのかと、疑いの眼差しでその様子を見ていたが、幾ら見ても寝息を聞いても寝ているようにしか感じられない。
さっきのは何かの見間違いと判断を下したのか、そろそろと近づき指で突付くまでを再度行う。突付く指の力が先ほどより力強いのは、驚いた事に対する腹いせなのかもしれない。
今度こそちゃんと寝ていると確認して、服に覆われていない掌の部分に、その小さな手をそっと触れさせる。
触れて指先に温かさを感じて少しだけ手を引っ込め、再度手を伸ばして触れる。
チラチラと紡玖が起きていないか顔を確認しながら、今度はその手を握ってみる。すると反射的にか、紡玖の手が少しだけ閉じられる。
引き抜こうと思えば何時でも引き抜ける程度に手を包まれながら、フマムュは触れるだけとは違う温かさをその手から感じる。
すると長らく誰も側に寄り添ってくれる相手が居なかった寂しさから、温かさをもっと感じたいと思ったのか、それとも寝ているから少しだけなら大丈夫と思ったのか。
どれらにせよ、フマムュは眠っている紡玖の身体の上に乗り始める。
そして身体をくっ付けようとして、ゴツゴツと身体に何かが当たった。
何かと思って手で探ってみると、ズボンのポケットが膨らんでいるのが分かり、ごそごそと取り出してみると、筒状のと四角い銀紙に包まれた何かと、箱が三つ出てきた。
ふんふんと鼻を鳴らして嗅いでみるが、美味しそうな匂いはしないので興味を失って、ぽいっと絨毯の上に捨てる。
そして寝心地が良くなったのを確認して、紡玖の上に身体を横たえる。
服越しに紡玖の体温を感じ、それが段々とじんわりと暖めてくれるかの様に温かみを増していく。
少しだけそれに満足しながら、昔誰かにされたように紡玖の手を自分の頭に乗せた。
撫でてはくれないだろうかと期待する眼差しを、紡玖の顔に向けてみるものの、相変わらず寝続けているので早々に諦めた。
「くぁ~ぅ~……」
紡玖の鳩尾辺りに頬をつけて温かさを感じ、すーすーと紡玖の静かな寝息を聞いていて眠くなったのか、フマムュは大きな欠伸をするとそのままの体勢で眠ってしまった。
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