第22話 教育開始
フマムュへ本格的な教育が始まって四日。つまりこの世界に来て約二週間の時が経っていた。
小学校低学年の時間割りを参考に、午前八時半から午後二時程度までを適宜に休み時間を入れつつ勉強に充て。その後は自由なんていう風にした。
内容はフマムュの性格を考慮して成長方向は回避一極型にしようと、逃げたり避けたりする動作が多いドッチボールと持久力作りの縄跳びを主軸に体育に。
チッテッキュが時間割りに入れようと主張した、数秘術とか魔法学とか戦闘術なんていうのはフマムュにはまだ荷が重そうなので短時間だけ――それも数秘術は算数に魔法学は料理と化学実験に戦闘術は運動へと姿を変えることで、チッテッキュの要望を適える事となった。
しかしながら難しいのを無理矢理やらせるよりも、何か小さな目標を設定してクリアーする度に褒めて延ばす方がフマムュに合っていたようで、スマホで確認したステータスは日を追う毎に小さくではあるが上昇し続けていた。
昨日の段階では特技の欄に一つの技名が載っており。幸先の良さにこのまま行けば、あと二週間も時間がある試験には絶対に合格出来る。
という皮算用が無駄になりそうな感じに、いま少しだけ困った事態になっていた。
それは――
「……なあフマ。どうしても勉強するのは嫌なのか?」
「ヤッ!もっとアタベクと遊びたい!!」
褒めて伸ばす弊害なのか、それとも強くなったのだとフマムュが自覚した事で自尊心が目覚めたのか、こんな具合に我が侭を発揮し始めた事よる予定消化の遅れが現れ始めていた。
まあこれだけならば別に焦る必要も無い。ただの子供の癇癪なら時間が解決するようなの問題なので、今日一日ぐらいはと紡玖は朝起きた段階では甘く考えていた。
だがこれに、フマムュと関係を改善しつつあるチッテッキュという要素を加えると、問題がより大きくなるのだ。
「お嬢様、いい加減になさって下さい。その我が侭で、午前中は一切勉強が進んでいないのです。これでは予定の意味が無いではありませんか!」
と自分が手伝っているからには予定を順々にこなさせないと、と焦るチッテッキュがどうにかフマムュに勉強をさせようとして。
「イヤ!チッテッキュはアタベクじゃないもん!!」
だから言うことは聞かないと、少し仲良くなってチッテッキュに恐れが消えたフマムュが意固地になりつつ反発する。
今日は朝からこんな調子で、紡玖は参ったなと頭を掻きつつ途方に暮れる。
ちなみに朝にも同じ様なやり取りがあったが、その時紡玖が間に入って二人を宥めようとしたら、チッテッキュの予定消化への焦燥感の矛先が紡玖へと向き、フマムュは庇ってくれる紡玖を詰る彼女にさらに反発を強める結果になってしまった。
なのでせめての折衷案と考えて、午前中一杯はフマムュの遊び相手をしつつ、フマムュの興味が強い化学実験と料理でモチベーションを高めて、午後に遊び混じりの運動でもして明日へ繋げようと画策した。
半ばまでは上手く行き、あとは昼食の終わり頃に話を切り出そうとした際に、チッテッキュが思わず零したため息でご破算となった。
恐らくあのため息は、このままだとフマムュが勇者へのかませ犬されて散華してしまうと危惧しての心労からだろうが、フマムュにとっては呆れのため息にしか聞こえなかっただろう。
それでフマムュの機嫌が一気に悪くなってしまったのだ。
仮にため息を吐いたのが紡玖だったら、ちゃんと説明すればフマムュも分かってくれただろう。
しかし紡玖がここに来る以前の出来事で、少し仲良くなったとしても何かしらの確執があるチッテッキュ相手だと、言葉に何か裏があるのではと素直に納得出来ない様だ。
本来素直で甘えん坊な性格のフマムュに、ここまで警戒されるとはチッテッキュはどんな事をしたんだと、紡玖は頭を抱えたくなる。
「何がそんなに気に入らないのですか。それとも矢張りニンゲンから教わるのが不満なのですか?」
そしてここ最近分かったことに、チッテッキュは相手の内心を推量するというスキルが足りない節があった。
「ムカッ……すぅぅ~~」
「ちょ、ストップ!それはダメだって!!」
紡玖の事を悪く言われて腹が立ったのか、大きく息を吸い込み出したフマムュの口を、大慌てで紡玖が手で塞ぐ。
いまフマムュがしようとしたのは、ステータス画面上の特技欄にある『焔の吐息』という、字面通りに口から火を吐くだけの技。系統的には二番目の弱さとはチッテッキュの言葉。
しかし息を吸えば吸うほど火力が増す特性もありつつ、軽く吸って吐くだけでも薪に火をつける程度の火力があるのは、食事支度の際に竈に火を入れて貰った事から分かっている。
なので先ほどの大きく吸い込んだのを吐き出したら、どれだけの炎が生まれるのか、想像するに恐ろしい。
「むぐぅー、むぅ!」
なので手で押さえて機先を制したのだが、それがフマムュには大層お気に召さなかった様で、可愛らしい目で見上げながら文句を言ってきている。
「ダメだよ。腹が立ったからって暴力に訴えちゃ。基本的に自分がやられて嫌な事は、相手にはやらないって、教えたでしょ?」
手で口を押さえながらそう諭すと、渋々ながら納得した様子を見せてきた。
「心配しなくても、私ならあの程度の炎は打ち消せますが?」
「チッテさんの事を誰が心配してますか。あと挑発しないで、口押さえている手が熱くなったからね!」
再度抗争が勃発しそうなのを押し止めて、内心で盛大にため息を吐き出した。
無論、こんな事があった為に勉強など出来るわけも無く、ステータスの上昇値は雀の涙程度もなかった。
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