待ってます
大きな大きな、子供向けの本が一冊。
両手で抱えないと持てないその本が、私は大好きだった。
何度読んでも飽きないそれを持って、同居人にして現在の保護者の元に行く。
彼は、パソコンに向かって仕事をしていた。私が部屋に入ってきたことには気付いたみたいで、私の方を振り向かずに「来たのか」と短く言った。私も「うん」と返事をして、彼の傍に行き、その場に腰を下ろす。部屋の床はフローリングだけど、彼がカーペットを敷いているから、程好く柔らかい。
私の抱える本を見て「またここで読むのか、いい加減飽きないのか」と呆れられたけど、「いいから仕事しなさい」と私が言えば、彼は溜め息をついて、「もう少しで仕事が一段落する。そしたら、君用の椅子でも買いに行こう」そんな提案をしてくれた。椅子はどうでもいいけどお出掛けはしたかったから「じゃあ待ってる」と返して、本を開く。
この本の主人公が大好きだった。破天荒で、淋しがりで、そしてかっこいい。現実にいたら絶対に友達になりたい。その話をすると彼は苦笑するけど、気にしない。とにかく大好きな私の本。
キーボードを叩く音を聴きながら読んでいたけど、半分ほど読んだ所で、急に、その音が止んだ。本から顔を上げれば、彼がパソコンの電源を切っているのが見えた。
「終わったの?」と訊けば「終わった」と答えた。それから「もう飯時じゃないか、どうする? 食べてから行くか、向こうで食べるか」と訊かれたので、少し考えてから「食べてから行く」と返事をした。
「あなたの作ったオムライスが食べたい」と言ったら、彼はおかしそうに笑って、私の頭をぐしゃぐしゃと撫でる。無理矢理乱された髪を口で怒りつつ直してから、私は大好きな本をそっと閉じた。
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