荷が重い

 ここに一つのお薬があります。

 ありとあらゆる病を治せる──という万能薬ではございませんが、たった一つ、世にも面倒な病を確実に治すことができる、そんなお薬です。


 そしてここに、二人の病人がいました。

 どちらも同じ病を患い、瀕死状態にあります。


 とても面倒な病で、どんな治療法も意味はありません。──ただし、一つだけ。

 とある薬を服用すれば、無事に回復することができるのです。

 それが叶わなければ、後は死ぬだけ。

 幸か不幸か、そのお薬は……私の手元にあります。

 たった一つしかない、この薬。

 けれど、この薬が必要な人間は、この場に二人いるのです。

 どちらかに使えば、どちらかは死ぬことになります。

 私は選ばなければいけないわけです。


 生かす方と、そうじゃない方を。


 ……なんて残酷な状況でしょう。正直誰かに変わってほしいです。

 けれどそうも言ってられません。こうしている間にも、二人は死に向かっているのです。

 早く選ばなければいけません。


 生かすか、生かさないか。

 薬をどちらに使うか……薬をどちらにも使わないか。


 このお薬は貴重なもので、あまり世に出ないものです。

 幸運にもそれを手に入れることができましたが、こんな奇跡二度も起こらないでしょう。

 それならば、どこかの研究期間に渡して、量産してもらうか、更なる改良をしてもらった方が、良いんじゃないか?

 その方がよっぽど人助けになるんじゃないか?

 そんな考えを持ってしまっては、もうそっちに傾いてしまいます。

 …………やはり、ここは、


 ──別に助けてくれなくて構わない。死ぬ時は死ぬ時なんだ。

 ──そこまで生きたわけじゃないけど、十分生きたと思う。


 ………………。

 この二人はムカつくことに、私の知り合いです。

 どんな人間であるかを、ある程度知っています。

 どちらも、生きることにあまり積極的な人間ではありませんでした。

 きっと、こうして死に絶えようとしている今も、意識はないでしょうが、もしかしたら覚悟を決めてたりするのでしょうか。

 ……なんだか、癪です。

 この二人の生殺与奪が、自分の手にあることに。

 こんな二人の生死を、自分が決めなければいけないことに。

 …………決めました。


 私は選びません。

 この二人に選ばせます。


 生きたいのか、死にたいのか。

 どちらの息の根が先に止まるのか、すぐ傍で待つことにします。

 二人同時に止まるようなら、先程傾きかけた通り、研究機関に向かうだけです。

 さぁ、どちらにしますか、お二人さん。

 私はいつまでだって、待ちますからね。


 それまでは、一緒にいられますからね。

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