そこにいた

 一時期、都市伝説をよく調べていた。

 と言っても、スマホのまとめサイトにある面白そうなものをただぼんやり眺めていただけで、洒落しゃれにならないような怖そうなものはできるだけ見ないようにしていた。基本的にはチキンでビビりな人間だから。

 その日も、自分の部屋にあるお気に入りの椅子に座って、まとめサイトで適当に読むものを探していたら、あるアニメの都市伝説についてまとめられているものがあった。

 子供の頃はよく観ていた懐かしいアニメ。いつから観なくなったんだろう、とか思いながらタップをすれば、いつも通り画面が切り替わる。タイトルと小さなサムネに目を向ければ、背景が黒く塗り潰されたサムネの中央、そこにいる主人公の顔が歪んでいて……。


 急に視界が真っ赤になった。


 例えるなら、いきなり部屋の照明の色を赤色に取り換えられたような感じだった。次いで、がくんがくんと椅子が激しめに揺らされる。部屋には私の他に誰もいなかったはずなのに。

 恐怖よりも驚愕しかなくて、何? と思って、何となく左側を見たら──女の子がいた。

 五歳から七歳くらいの子供で、柔らかそうな肩までの黒髪、赤と……白か黒のボーダーの服を着てて、ぱくぱくと動かす口と目元は、真っ暗な空洞になっている。

 その子は何かを訴えるように、肘置きの所をその小さな両手で掴んで、椅子を揺らしにかかる。

 私に妹はいない。そんな小さな子供が家に遊びに来ていたわけでもない。誰だこの子? なんて思いながら、瞬きをすれば──視界はもう元に戻っていた。

 いつも通り照明は白くて少し暗めで、椅子も動いていない。何度瞬きをしても、視界が真っ赤になることもなければ、知らない女の子に椅子を揺らされることもなく。

 まあ、いいか、と流して続きを読もうと思ったけれど、なんだかもう読む気になれず、そのまま画面を消した。

 それ以降、都市伝説は調べなくなった。

 他に面白いことがいくらでもあった、というのもあれば、なんとなく気が進まないというのもあって。

 あの女の子は何だったんだろうとたまに思い返す時、何故かそこに怖いという感情はいつもなく、あるのはただ単に、不思議だったなぁ……という感想のみで。

 だけど一つ、こんなことを思い出した。

 母がどたばたと仕事に行く準備をしている、騒々しい音で目を覚ました朝のこと。私はその日休みで、起きたことに気付いた母は私に洗濯をしといてくれと頼んできた。

 目を擦りながら上半身を起こしていき、返事をしようと母の方を見た時、寝惚けた私は母にこう訊いた。


 その隣にいる女の子、誰?

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