この仕事が終わったら……

「君にとって、僕は何?」


 作家は私にそう訊いた。

 だから私はこう答えた。


「最高の変人」


 作家は黙った。彼はどんな返事を期待したのか。

 何を求められたとしても、私の答えは変わらない。


「変人よ」

「二回も言うな!」


 怒った作家は、けれど、私を部屋から追い出さない。

 それに、私がそう思う理由も、訊いてはこない。

 作家は作家で、仕事を続ける。

 私は私で、作家が以前作り上げた物を見ていた。

 お互い、背中合わせだ。


「まぁ、いいよ。それより、僕の仕事が終わったらどうする?」

「あなたはどうしたい?」

「僕が決めていいの?」

「私が疲れないことならね」

「……」


 作家はしばらく黙った。手を止めているらしく、作業音が聴こえない。

 私は黙々と、作家の作品を見ていたら、ようやく口を開いた。


「このまま部屋でゆっくりしよう。映画を観るも良し、音楽を聴くも良し。それは君が決めていい」

「そう? じゃあ、音楽を流しながら、昼寝をしましょ。お互い目を休めないと」

「たしかに、目が疲れたな」

「はい決定! お仕事頑張って!」


 作家の仕事が終わるまで、もう少し。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る