おつかれさん
弟の部屋は、今日も薄暗い。
その光量に慣れた故か、俺が開けた扉から漏れた光を、弟は煩わしそうにしている。
「早く閉めて」
そう言われ、俺は手早く扉を閉め、薄暗い部屋の中を障害物に気を付けながら歩き、弟の元へ行く。
弟はパソコンとにらめっこしていた。
画面には一面、文字が書かれている。
「一段落つきそうか?」
「……まだ」
弟は首を横に振った。
キーを打つ手は止まらず、文字がどんどん増えていく。
「今度はどんな話なんだ」
何となく、弟に訊いた。
弟は一瞬目を細めたが、すぐに答えてくれた。
「霊感のある男子高校生と、心が読める女子高校生の話」
「ラブコメか?」
「見る人によるんじゃない? 人は自分が見たいものを見たいようにしか見ない、らしいから」
俺と会話していても、弟の指は忙しなく動き続ける。
増えていく文字を少しの間ぼんやりと眺めると、パソコンの傍に邪魔にならないよう、色々と物が入ったレジ袋を置いた。
中には、弟の好きな炭酸ジュースや、ジャムサンドとポテチが入っている。
「頑張れよ」
俺はそう言って、扉に向かう。
弟は何も言わない。激励の返事も、差し入れのお礼も、いつもなら。
でも、
「……うん、ありがと」
今日は、言ってくれた。
弟に何かあったのだろうか。
気になるが、邪魔をしてはいけない。
にやける顔も整えず、部屋を出た俺は、静かに扉を閉めた。
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