返事来ない
『帰りにアイス買ってきて』
そんなラインを恋人に送ってしばらく経つけど、返事は来ない。
同棲中の恋人は仕事で出掛けてるものの、時刻はそろそろ二十三時。とっくに職場を出ている頃だ。
既読にならないのを見て、お願いを付け足した。
『コンビニ限定のアレがいい』
次に見た時には既読になっていたけれど、返事は来ていない。
私は更に付け足した。
『お風呂上がりにすぐ食べたいから、急いで帰ってきてよね』
確かにそう送った。……なのに。
お風呂から上がっても恋人はいない。
だけど返事は来ていた。
『ごめんな、』
それだけ。
明らかに途中だけれど、それが来たのは二十分も前。
もしや「。」を「、」と打ち間違えたのかなと思いつつ、何度もラインを送った。
『もう出ちゃったよ』
『今どこ?』
『時間掛かりすぎじゃない?』
『もしかして、仕事まだ終わってなかった?』
『時間的にもう終わったと思ってたんだけど』
『それならそうと言ってよ』
『なんか既読にならないし』
『ねぇ』
『ねぇ』
『どうしたの?』
時計を見れば、一時を過ぎている。
恋人からの返事は来ない。
こんなことは今まで一度もなかった。
何となく不安になって、更に送ろうとした、その瞬間──スマホの着信音が部屋に鳴り響く。
恋人からかと画面を見れば、何故か、公衆電話と表示されている。
ホラー耐性はそこまでないし、時間も時間なので正直出たくないけれど、相手が恋人である可能性もあるので、仕方なく出る。
「……もしもし」
『……』
無言。
辛うじて息遣いが聴こえるものの、どんなに待っても返事は来ない。
気味が悪いので切った。
一分もしない内にまた掛かってくる。画面には公衆電話とある。
出たくない。
出たくない。
出たくない、けど……。
「何なの気持ち悪いっ!」
一縷の望みに賭けてみた。
……単なる恋人の悪ふざけであってほしい。
電話の相手は、
『いきなり切るなよ』
聴こえてきた、その声は、
『しかも酷くない? 気持ち悪いとか』
「公衆電話から男の息遣いだけが聴こえてきたら気持ち悪いでしょうがっ!」
恋人だった。
……お化けとか変態じゃなくて良かった。
まぁ、後者だったら何で番号知ってんだってなるけど。
「てか、何で公衆電話?」
『充電切れちゃったもんだから、連絡できなくて』
「……ラインの、ごめんなって何よ」
『君が食べたがってたアイス、コンビニ何軒も行ったけど、見つからないんだ』
「……日付け、とっくに変わってるんだよ? 明日も早いんだから、三軒目くらいで諦めたら良かったのに」
『……だって、さ』
「何?」
『昨日、怒らせちゃったから、手ぶらで帰ったら余計に怒らせるかなって』
「あなたが帰って来ない方が余計怒る」
『じゃあ、帰ろっかな』
「帰ってきて」
『待っててね』
三十分後、恋人は帰って来る。
手にはコンビニの袋。
中には二個に分けられるアイス。
食べたかった期間限定のアイスよりも安いそれは、だけど期間限定のアイスよりもずっと美味しかった。
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